[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
今回取り上げる映画は、『相続人』「L'HERITIER」です。
1973年製作のフランス=イタリア合作映画で、ジャン=ポール・ベルモンド主演のサスペンス映画。
監督のフィリップ・ラブロ(1936~)はメルヴィルの弟子で、周囲から“精神的息子”と言われたほど、メルヴィルに私淑していた人物です。
(画像は近年のフィリップ・ラブロ)
例えば、『影の軍隊』『仁義』の作曲家であるエリック・ド・マルサンは、メルヴィルのジェンネル通りにある家を訪ねた時の様子を次のように語っています。
「通常私は土曜日に彼を訪ねましたが、そこでしばしば彼の精神的息子であるフィリップ・ラブロが家を出る場面に行きあたりました」(仏ユニヴァーサルから発売されている『影の軍隊』サントラのブックレットより)
また、フィリップ・ラブロは、ルイ・ノゲイラ著『サムライ』のあとがきも書いています。
フィリップ・ラブロのこの他の監督作品に、『刑事キャレラ/10+1の追撃 SANS MOBILE APPARENT』(71年 エド・マクベイン原作 ジャン=ルイ・トランティニャン、ドミニク・サンダ共演)、『潮騒 LE HASARD ET LA VIOLENSE』(74年 イヴ・モンタン、キャサリン・ロス共演)、『危険を買う男 L' ALPAGUEUR』(76年 ベルモンド主演)など。
ところで、この『相続人』ですが、大変に面白い映画でした。
鉄鋼会社と新聞社を支配していた財界の大物の父の死によって、ベルモンドが相続人としてアメリカから帰国するところから物語は始まりますが、いわゆるフィルム・ノワールというよりは、実業界の政争をサスペンス・アクションとして描いたという趣の作品です。
しかし、どこかしら、メルヴィル的なクールなタッチが感じられ、音楽の共通点(ミシェル・コロンビエ)もあって、『リスボン特急』あたりに近い味わいが感じられます。
サスペンス映画としても脚本が実によくできており、ストーリーとしては、むしろ、こちらの方が面白いと言えるかもしれません。
ベルモンドも、他のアクション物とは一味違った重厚さをここでは見せて実にカッコ良いです。
共演のジャン・ロシュフォール、シャルル・デネも好演で、ベルモンドとデネの相性が意外なほど良く、二人のコンビぶりが素晴らしい。
女優二人(カルラ・グラヴィーナ、モーリン・カーウィン)との絡みもあまり描写がくどくなく、匙加減が絶妙。
そして、この映画と、メルヴィルの繋がりはなかなか面白いものがあります。
まず、キャストですが、メルヴィル作品とも縁あるジャン=ポール・ベルモンド、ジャン・ドサイ、ピエール・グラッセが出演しています。
ベルモンドとグラッセの共演というのも非常に珍しいのではないでしょうか。
しかも、グラッセは『マンハッタンの二人の男』と同じくジャーナリストを演じているのですが、なんとその役名がデルマス。
そう、あの『マンハッタンの二人の男』でグラッセが演じた役名と同じなのです。
ルイ・ノゲイラ著『サムライ』において、メルヴィルは次のように語っています。
“ベルモンドが私に言ったんだが、『マンハッタンの二人の男』を見た時、ベルモンドは〈マリニャン〉〔映画館〕から非常に暗い気持ちで外に出た。その年はベルモンドの年ではなくてグラッセの年になるだろうと思ったからなんだ。ただし、私の映画に対してある陰謀が企てられ、ちっとも儲からなかったがね。”(『サムライ』ルイ・ノゲイラ著 晶文社刊)
その二人がこの映画で共演しているのは、メルヴィルの弟子であるフィリップ・ラブロの監督作品だからこそと言えるのではないでしょうか。
また、飛行機の中でベルモンドが罠を仕掛けられる女(モーリン・カーウィン)の名前がローレン・コーレイというのも、『仁義』を知っている人にはニヤリとさせられる点でしょう。(『仁義』でのアラン・ドロンの役名はコーレイです)
そして、音楽は『リスボン特急』の音楽も担当していたミシェル・コロンビエ。
『リスボン特急』とほぼ同時期の作品ということもあり、テイストがかなり似ていますが、こちらの方がシンセサイザーを多様した、フュージョンっぽいサウンドが聴かれます。
その点、いかにもこの時代の作品という感じですが、それが映画に合っていてなんとも格好良いんですよね。
1年前に書いた記事をトラックバックいたしました。
この作品はベルモンド主演作の中では私のベストです。
書かれていますようにどこかメルヴィル作品の香りが全編に漂っていて
音楽のかっこよさも群を抜いています。
公演をジョギングした後、香水のビンが入った紙袋を開けて体に刷り込んだり
不思議な「板」をベッドの枕元に置いていたり、
バラ園の1本のバラの中にマイクロフィルムが隠されていたり、
それぞれ印象深いシーンが多いです。
さすがにメルヴィル作品にお詳しいだけ合って、関連情報は勉強になりました。
壁にマッチをすって火をつけるジャーナリストの役の俳優がそういう方だったとは知りませんでした。
ありがとうございます。
http://cinema.encyclopedie.films.bifi.fr/index.php?pk=48981
足を洗った元強盗のジュリアン・ルロワ(グラッセ)は犬と孤独な生活を送っている。現金護送車のチーフ、ポール・モランディ(ラモン・イグレシアス)はスペインで彼と接触し、強盗をもちかける。いったん断ったジュリアンは20億という金額に誘惑され、考えを改める。この「大仕事」を実現するため、ジュリアンは古い「戦友」たちと接触する。輸送業についているジョー(レイモン・ペルグラン)、バーの経営者ジャッキー、若い冷酷な殺し屋ジェジュ(ピエール・ドミニク)。土壇場で、いかさまポーカーで刑務所に入ったジャッキーがジェジュの友人スタニ(ギ・メレッス)に代えられる。強盗の最中、ジャーナリスト、ベルタン(ルイ・ヴェル)と写真家リッツィ(マルク・ポレル)が偶然いあわせる。リッツィはそれと知らず強盗現場の写真を撮る。リッツィは警察とのあいだにいざこざがあり、警察に協力する気はない。匿名で自社の雑誌に2枚の写真を届けるが、警察は彼が撮影者だと疑う。警察署長デュマ(ミシェル・アルダン)はリッツィに24時間以内にネガを渡せという。その間、強盗団は、最初、1千万をリッツィに渡し、写真を取り戻そうとする。リッツィを動かすため、強盗団はリッツィの婚約者ソフィ(ネダ・アルネリック)を誘拐する。彼女を護衛していた警官がスタニ、ジェジュと敵対し、警官一名が殺される。誘拐の失敗を知らないジュリアンとジョーはリッツィとの会見を決める。リッツィはベルタンと警察の協力を得て、彼らを罠にかける。ある通りに追いつめられたジュリアンたちは車を乗り捨て、リッツィを負傷させた後、メトロに乗る。ジョーは逃げのびるが、致命傷を負ったジュリアンは車を盗み、その後、彼が犬を預けてあった友人の家の前で死ぬ。
こちらこそご無沙汰しております。
チェイサー様の中でも『相続人』の評価が高いようで、私も嬉しいです。
ストーリーも起伏に富んでいて面白いですし、ご指摘のシーンも大変印象的でした。
とりわけ、バラの中にマイクロフィルムが隠されていたシーンは良かったと思います。
ジャーナリスト役のピエール・グラッセのベルモンドとの絡みは、メルヴィル・ファンにはなかなか感慨深いものがありましたし、ジャン・ドサイの特別出演も嬉しかったですね。
ピエール・グラッセの監督作品『都会が目覚めるとき』に関する貴重な情報、ありがとうございました。
グラッセが監督作品を残していたとは知りませんでした。
私も好きなジョン・ヒューストンの『アスファルト・ジャングル』については、ルイ・ノゲイラ著『サムライ』にメルヴィルとグラッセが二人で何度も観に行ったという話が出ています。
しかも、レイモン・ペルグランまで出ているのですね。
あらすじまで訳していただいてありがとうございます。
内容も実にメルヴィルっぽいもののようですね。
機会があったら、是非観たい映画です。
国内未公開のようなのが残念ですが・・・。
ピアソラの音楽というのも興味深いところです。
ついたおかげで重みがでました!
感謝いたします。
『相続人』をTVで初めて観たときはちょっと難解で
理解できなかったんです。
ビデオで後年観なおしてみて面白さ、カッコ良さに
ホレちゃいました。
このサントラの良さはなかなか言葉では言い表せないですね。プログレ・ロックに近い香りをとても
感じるんです。
ドロン作品との絡みのお話はとても興味深いです!
こちらこそトラックバックしていただき、ありがとうございました。
コメントまでいただき恐縮です。
正直言いまして、それほど音楽に集中して映画を観ていたわけではないので、今度また改めてコロンビエの音楽に注目して観てみたいと思います。
プログレも興味がなくはないので(実はピンク・フロイドのファンなのです)その辺りにも注目して。
メルヴィルを始め、往年のフランス映画やアメリカのフィルム・ノワールのほか、JAZZ、松田聖子など好きな音楽についても綴っています。
リンク、コメント、TB等はご自由にどうぞ。