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先日、『ギャング』の原作『おとしまえをつけろ』(ジョゼ・ジョヴァンニ著 岡村孝一訳
早川書房)を読み終えましたが、小説そのものの面白さはもちろんのこと、小説の役柄のイメージと、メルヴィル版映画の俳優のイメージの違いなど、読んでいてとても興味深く思いました。
この作品はこの度、アラン・コルノー監督、ダニエル・オートゥイユ主演でリメイクされ、フランスでもこの10月に公開になりますが(公式サイト)、1966年に撮られたメルヴィル版は、映画の完成までに紆余曲折あり、最終的に完成した映画は、当初予定だったキャスティングとは大きく異なるものとなったのです。
もともとメルヴィルが1964年に映画化する予定だった際のキャスティングは主に次のようなものでした。
ギュ セルジュ・レジアニ
マヌーシュ シモーヌ・シニョレ
ブロ警部 リノ・ヴァンチュラ
ジョー・リッチ ロジェ・アナン
オルロフ ジョルジュ・マルシャル
ポール・リッチ レイモン・ペルグラン
アントワーヌ ピエール・クレマンティ
俳優との契約も既に結ばれていたにもかかわらず、ある事情によって、この計画は流れてしまいます。
メルヴィルは、一旦この映画の話からは外れることになり、次にこの映画を監督することになったのはドニ・ド・ラ・パテリエールでした。
パテリエール監督版では、主演俳優が代わります。
ギュ ジャン・ギャバン
ブロ警部 リノ・ヴァンチュラ
残念ながら、他のキャスティングは分かりません。
一つ分かっていることでは、ドニ・ド・ラ・パテリエール監督は、アントワーヌ役に、メルヴィル版と同じピエール・クレマンティをキャスティングしようとしましたが、クレマンティに「いえ、私はメルヴィル氏の映画に出るはずでしたので、あなたの映画にはこれっぽちも出ようとは思いません」と断られたというのは有名な話です。
当然のことながら、メルヴィルは、クレマンティの態度を高く買いました。
そんなこんなで、どういう事情があったのかは分かりませんが、パテリエール監督版の話も流れてしまい、再びメルヴィルに監督の話しが廻ってきます。
実際に1966年にメルヴィル監督版で映画化された際のキャスティングです。
ギュ リノ・ヴァンチュラ
マヌーシュ クリスチーヌ・ファブレガ
ブロ警部 ポール・ムーリッス
ジョー・リッチ マルセル・ボズフィ
オルロフ ピエール・ジンメル
ポール・リッチ レイモン・ペルグラン
アントワーヌ ドニ・マニュエル
メルヴィルが再び監督をすることが決まったのは撮影の直前(4日前とか)だったらしく、このキャスティングにどれだけメルヴィルの意向が働いているのかは分かりませんが、当初(1964年)の予定とかなり異なっていることから想像しますに、実際はあまりかかわっていないのかもしれません。
アントワーヌ役がピエール・クレマンティではなく、ドニ・マニュエルになっているのは、クレマンティが他の映画の撮影(おそらくルイス・ブニュエル監督の『昼顔』)で、スケジュールが空いていなかったためとのことです。
面白いのは、ギュ役が、それまでずっとブロ警部の役の予定だったリノ・ヴァンチュラにふられていることです。
実際、小説版を読みますと、ギュは50歳以上というの設定で、周囲から“おやじ”“老いぼれ”呼ばわりされており、当時では、ヴァンチュラよりもセルジュ・レジアニが、そして、レジアニ以上にジャン・ギャバンが一番小説のイメージには近い気もします。
完成した作品を観ますと、メルヴィルはその年齢の設定そのものや、役柄のイメージも原作とはあえて変えて撮ろうとしたようにも思われますが、メルヴィルと組んだジャン・ギャバンというのも一度は観てみたかった気がしますね。
二人の関係は、おそらく上手くいかなかったでしょうが。(笑)
マヌーシュは、原作では超美人のグラマーという設定でして、メルヴィルが64年に予定していたシモーヌ・シニョレは、若かりし頃はともかく、当時ですと、年齢的、ビジュアル的に正直どうかな?という思いもします。(笑)
その時点では、ギュ役はセルジュ・レジアニの予定であり、あのジャック・ベッケル監督の『肉体の冠』を彷彿とさせるコンビ復活という狙いもメルヴィルの頭の中には当然あったことでしょう。
そういう意味では、実際に66年に映画化された際のクリスチーヌ・ファブレガの方がずっと原作の役柄のイメージに近かったといえるでしょう。
原作には色っぽいシーンもふんだんにあるのですが、メルヴィル版映画ではそういったシーンがほとんど描かれていないのはメルヴィルらしいと言えるでしょうね。
それでも、今度のリメイク版では、マヌーシュ役がモニカ・ベルッチと聞いて、原作を読む前は正直違和感があったのですが、原作を読んでみると、なるほどなぁーと納得してしまいました。(笑)
ところで、原作によれば、マヌーシュの本名はシモーヌといい、マヌーシュという名前は渾名で、意味は“ジプシー女”というのだそうです。
メルヴィルを始め、往年のフランス映画やアメリカのフィルム・ノワールのほか、JAZZ、松田聖子など好きな音楽についても綴っています。
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