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野村芳太郎監督の『砂の器』を国内盤DVDで観た感想です。
『砂の器』(74年)
監督:野村芳太郎
原作:松本清張
脚本:橋本忍、山田洋次
音楽:芥川也寸志
出演:丹波哲郎、加藤剛、加藤嘉、緒方拳
再見。
子供の頃に観た映画で、内容をずっと忘れ去ってしまった作品というのがいくつかある。
この作品もそうで、中学の時テレビで観た覚えがあるが、親子の巡礼のシーンの強烈な印象だけが残っていた。
その後、数年前にデジタル・リマスター版が劇場公開された際にスクリーンで観て、想像以上に凄い作品であったことに改めて気付かされた。
今回観たのはたぶんその劇場公開されたものと同じと思われるデジタル・リマスター版のDVD。
原作の力なのか、脚本の力なのか、演出の力なのか、俳優の力なのか、はたまた音楽の力なのか(もちろんその全てなのだが)、やはり全篇を貫く迫力に圧倒される。
正直言って、私の期待するストーリー展開となっていないところもあるのだが、細かいことはどうでもいい。
これも一種の大河ドラマで、内田吐夢監督の『飢餓海峡』(65)などもそうだが、日本映画は人間の業(?)を描くのがうまい。
この作品は、殺人事件を巡るサスペンスに親子の情を絡めているところにいかにも日本的な特質を感じる。
実際、この作品の後半で描かれている親子の物語など、ほとんど歌舞伎や人形浄瑠璃における義太夫の世界である。
設定こそ当然違うものの、この映画を観ていると『新口村』やら『沼津』やらの義太夫の親子の情愛の物語が重なり合って見えてしまう。(個人的には前半の殺人事件の謎を追うミステリーチックな探偵劇がすこぶる好きだが)
映像の力も素晴らしく、とりわけ、ここに描かれている日本各地の風景にはこの国ならではの美感が見事に示されている。
それらを巡る列車の旅が作品中に頻発するのも松本清張の原作作品らしい。
冒頭の蒲田駅構内での殺人事件というだけで、いかにも松本清張らしい“GHQ臭さ”(?)を感じ、ワクワクしてしまうのである。
俳優陣は誰もが素晴らしいが、特に刑事役の丹波哲郎の演技、存在感が強く印象に残る。
先日小林正樹監督の『切腹』(62)も観て、時代劇におけるこの俳優の演技に強い感銘を受けたのだが、現代劇でもやはり大した俳優である。
父親役の加藤嘉の名演技も言うまでもないが、この人の他の出演作を観るとなおさらこの作品における演技の凄さがよく理解できると思う。
芥川也寸志による音楽も少々大袈裟過ぎる傾向はあるものの、メロディ、構成ともに実によく出来ている。
音楽だけで情景が浮かんでくるかのよう。
映画技法的にところどころ稚拙とも思える部分もあることはあるが、(今さらながらだが)この作品が世界映画の傑作群にも劣らぬ大傑作であることは間違いない。
メルヴィルを始め、往年のフランス映画やアメリカのフィルム・ノワールのほか、JAZZ、松田聖子など好きな音楽についても綴っています。
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