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『影の軍隊』、『仁義』の音楽を担当したエリック・ド・マルサンによれば、ジャン=ピエール・メルヴィルは大変なジャズファンで、ジャズのレコードのコレクターだった。
音楽を通して、二人は熱心な議論を交わしたという。
どうやら、フランスの(往年の)映画監督にはジャズファンが多かったようだ。
あのジャック・ベッケルがそうだった。
そして、ベッケルが助監督としてずっと付いていたジャン・ルノワールは、ベッケルの影響でジャズファンとなるのである。
ジャズをサントラに使った映画の最高傑作ともいえる『死刑台のエレベーター』のルイ・マルもジャズが好きだったのだろうし、アート・ブレイキー&ジャズ・メッセンジャーズをサントラに起用したエドゥアール・モリナロやロジェ・ヴァディムもそうだったのだろう。
もともとメルヴィルやベッケルの作品には、アメリカ映画の影響が強く、ベッケルなどはデューク・エリントンの演奏が聴きたいがためにアメリカにまで渡ったというくらいだ。
この二人が親しかったのも偶然ではないのかもしれない。(ベッケルの遺作『穴』はメルヴィルの撮影所であるジェンネル撮影所で撮影されている)
ところでメルヴィルだが、特に彼はモダン・ジャズ・カルテット(以下MJQと略す)の大ファンだった。
メルヴィルが最も大きな影響を受けたと告白している戦後のアメリカ映画は、ジョン・ヒューストン監督の『アスファルト・ジャングル』(50)とロバート・ワイズ監督の『拳銃の報酬』(59)の二本だが、『拳銃の報酬』のサントラを手がけたのはMJQのピアニスト、ジョン・ルイスであった。
エリック・ド・マルサンによれば、メルヴィルは、ジョン・ルイスによる『拳銃の報酬』のスコアをとりわけ好んでいたという。
メルヴィルは、後に『仁義』(70)の音楽を急遽エリック・ド・マルサンに依頼した際、『拳銃の報酬』のサントラ・テープを聞かせながらド・マルサンにこう語る。
『これこそが私が求めている色なんだ!』
そして、ついに監督作『ギャング』(66)の音楽を、熱望していたジョン・ルイスに依頼することに成功するのである。
ところが、ここからがなんともメルヴィルらしいところなのだが、ジョン・ルイスが『ギャング』のために用意した音楽がどうしても気に入らなかったメルヴィルは、これを一方的に破棄した。
いわば、ジョン・ルイスをクビにしたのだ。
音楽界、映画界の違いはあるとはいえ、ジョン・ルイスといえばジャズ界でも大物中の大物である。(あのオーネット・コールマンもジョン・ルイスの強力な推薦があって50年代末にレコード・デビューを果たしている)
『ギャング』公開前はまだフランス映画界でも大物とは言えなかったメルヴィルが、そのアメリカ音楽界の大物のクビを切ったのだ。(本当にメルヴィルがフランス映画界の大物と言えるようになるのは『ギャング』(66)『サムライ』(67)公開以後のことでであろう)
この事実は、いかにメルヴィルが、映画作りに妥協をしなかったかを示しているのではないだろうか。
結果、ベルナール・ジェラールが『ギャング』の音楽を担当することになるが、実際はベルナール・ジェラールが用意した音楽のごく一部しか映画には使用されなかったという。
思えばメルヴィルほど音楽に“うるさい”映画監督もいなかったのかもしれない。
有名な話だが、『仁義』においては、あのミシェル・ルグランをクビにしているのだ。
ミシェル・ルグランが『仁義』のために用意した音楽は、近年発売されたメルヴィル作品のサントラCD『Le Cercle Noir』にも収録されているから、耳にした人も多いだろうが、確かに『仁義』という映画には少々似つかわしくない印象がある。
しかし、なにしろ大物ミシェル・ルグランであるから、並みの監督ならさすがにクビにまではしないだろう。
それをやってしまうのがメルヴィルという監督なのである。
『マンハッタンの二人の男』(58)の音楽を担当したクリスチャン・シュヴァリエなどは、メルヴィルの厳しい要求に耐え切れず、ノイローゼにまでなってしまったという。
ちなみに、ジョン・ルイス作曲の『ギャング』の音楽はマスター・テープも残っていないとのことで、レコード化、CD化された形跡はない。
MJQの音楽自体は私も大好きなので、今度好きなアルバムについて書いてみたいと思っている。
しかしメルヴィルがMJQの大ファンだったとは知りませんでした。メルヴィルもパリ、サンジェルマン・デ・プレのナイトクラブとかで、ジャズの生演奏とか聴いていたのでしょうか…。
やはりフランス映画にはジャズが似合います。
そして念願の『賭博師ボブ』の国内DVD化、嬉しいですね。5月に発売とはちょっと待ちきれない感じですが、念願叶いました。この勢いで年内に『ギャング』の国内DVD化、『サムライ』の再発売という運びになれば嬉しいのですが…。
メルヴィルを始め、往年のフランス映画やアメリカのフィルム・ノワールのほか、JAZZ、松田聖子など好きな音楽についても綴っています。
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