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これからは、メルヴィル作品に限らず、メルヴィルと関連のある他の監督の作品についても、いくつか取り上げてみたいと思います。
今回取り上げるのは、ジャック・ベッケル監督の遺作『穴』(60年)です。(ネタバレは避けています)
この作品はジョゼ・ジョヴァンニが1958年に発表した同名小説を元にして撮られたもので、内容は1947年に実際に起きたという脱獄事件を扱ったものです。
それだけに、徹底的にリアリズムにこだわった作品で、ロラン役のジャン=ケロディはなんと実際の脱獄囚の一人だというのですから、驚きです。
自身の監獄生活を元にこの原作を書き、映画の脚本にも参加したジョゼ・ジョヴァンニは、映画『穴』には一切嘘がないとまで言い切っています。
舞台はパリ14区、ダンフェール・ロシュロー駅近くにあるサンテ刑務所。
未決囚が収容されている刑務所だといいます。
もちろん、現地ロケはできず、この映画はすべてセットで撮影されました。
この作品とメルヴィルの関連ですが、この作品はメルヴィルの個人スタジオであるジェンネル撮影所で主に撮り直し部分が撮影されました。
初めベッケルからの話では「撮り直したいところがあるので、ちょっとだけ貸してくれ」とのことでしたが、粘りに粘って、5ヶ月もの間(1ヶ月との説もあり)居座り、撮り直しに余念がなかったとのことです。
メルヴィルもセットを組むのに協力したとのことで、映画のどの部分がジェンネル撮影所で撮影されたのか特定するのは難しいのですが、分かっているところでは、鉄格子の外側のシーンはメルヴィル邸の外壁を利用したとのことです。
つまり、この作品は、ジャック・ベッケル~ジョゼ・ジョヴァンニ~ジャン=ピエール・メルヴィルというフランスのフィルム・ノワールの王道ともいえる3人のコラボレーションによって作られた作品だとみなすこともできるのです。
ちなみに、ジョーを演じたミシェル・コンスタンタンは、この後フランス・フィルム・ノワールの脇役として無くてはならない存在となり、メルヴィル監督、ジョゼ・ジョヴァンニ原作・台詞の『ギャング』にも出演し、見事な存在感を示すことになります
現に、メルヴィルも『穴』を、「この世で最も素晴らしい映画の1本」とまで語っていますが、それというのも、ジャック・ベッケルとの友情があればこそでした。
ジャック・ベッケルはメルヴィルがフランス映画界で孤立していた頃、唯一親しくしてくれた存在であり、彼の存在のお蔭で、メルヴィルは映画界に踏みとどまることができたのです。
この辺りはルイ・ノゲイラ著「サムライ」に書かれたエピソードの中でも最も感動的なものの一つですので、この点に多少なりとも関心のある方には是非直接本を読んでいただきたいと思います。
ところで、脱獄モノはある種、ストーリーの展開と結論が見えるので、今一つ観る気になれないという人もいるかもしれません。
現に私がそうでした。
しかし、この映画の魅力はまるで次元が違っています。
昨今の映画のように音楽で必要以上に緊張感を煽ったりはせず、穴を掘る音一つで緊張感を高めてゆく演出の簡潔さがすごい。
また、一人一人の登場人物のキャラクターが実によく描けており、人間関係の変化や感情の移り変わりの描写も素晴らしい。
とりわけ、マニュとガスパールの人間関係の変化が巧く描けていると思います。
当時は全く無名だった俳優ばかり起用している点も特筆に価しますが、マニュ役のフィリップ・ルロワなど大変な名演だと思います。
あと、是非ともお伝えしなければならないことは、最近、この名作の東北新社盤DVDが廃盤になってしまった、ということです。
Amazonでも中古価格が高騰しつつありますので、店頭に在庫が残っている今のうちになんとしても入手されることをオススメします。
この作品は、メルヴィルの諸作と同様、一生、何度観ても楽しめる名作であると思うからです。(画像は以前も紹介しましたが、この3月にモンパルナス墓地を訪れた際に見つけた、ジャック・ベッケルのお墓)
最後に、中条省平氏の「映画作家論」(平凡社)から、この映画に関する文章を紹介しましょう。
「遺作の『穴』となると、その簡潔さ、無駄の殺ぎ落としかたは尋常ではなく、見ているのが息苦しく、恐ろしくさえある。立ちはだかる壁、行く手を遮る鉄格子との格闘は、まさに物質との闘いであり、そこには一点の曖昧さも、妥協の余地もない。これは映画史上もっともハードボイルドなフィルムだといってよいだろう。」
こちらもAmazonでは『穴』以上に中古価格が高騰しつつあります。
まだショップに置いてある可能性もありますので、お早めに!
実に似た題材にロベール・ブレッソンの『抵抗(レジスタンス)』がありますよね。中条省平氏によれば、ブレッソンが独創的でフランス映画のどの体系にも属さないとのことですが、わたしはそうは思えず、ジャック・ベッケルからメルヴィルにかけての作品にはブレッソンのストイシズムが密接に影響していたように思えてしまいます。
『冒険者たち』のアンリコ監督は、ポエジーと作家主義にこだわっていたとのことですが、彼やジョヴァンニ、そしてアラン・ドロンやジャン・ギャバンまで含めればや旧世代まで関連する壮大なフランス映画体系が再構築されるような気がします。
すみません。いつもここのところのこだわりから、脱出できないんです。
では、また。
恥ずかしながら私、TBの使い方が(設置しているのにもかかわらず)よく分からないのですが、使い方が分かりましたら、こちらからもTBさせて下さいね。(^^;)
ところで、私はブレッソン作品もほとんど観たことがありません。
「ほとんど」といいますのは、観始めたのに最後まで観なかった2本ほどあるからです。
『抵抗』も当然未見ですが、ブレッソンとメルヴィルの作風の関連を指摘する声は昔からあるようですね。
ルイ・ノゲイラの『サムライ』でメルヴィルは、“ブレッソン化”しているとの声に反駁して、「ブレッソンの方が“メルヴィル化”している」と言っていますが、このあたりは二人の作品を見比べてみないことにはなんとも言えませんね。
このあたりは今後の研究課題ですが、その意味でも、メルヴィルの処女作『海の沈黙』が国内未公開なのは残念です。
他の方と価値観を共有できませんからね。
トムさんがこだわってらっしゃるフランス映画体系の再構築には、私ももちろん興味あります。
ジョゼ・ジョヴァンニと親しかったというリノ・ヴァンチュラ、そして、フランソワ・ド・ルーベといった連中も含めて考えると、さらに面白くなりそうですね。
メルヴィルを始め、往年のフランス映画やアメリカのフィルム・ノワールのほか、JAZZ、松田聖子など好きな音楽についても綴っています。
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