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ジャック・ベッケル監督の『現金(げんなま)に手を出すな』を国内盤DVD(東北新社)で観た感想です。
『TOUCHEZ PAS AU GRISBI』(54年)
監督:ジャック・ベッケル
原作:アルベール・シモナン
脚本:ジャック・ベッケル、モーリス・グリフ、アルベール・シモナン
撮影:ピエール・モンタゼル
音楽:ジャン・ウィエネル
出演:ジャン・ギャバン、ルネ・ダリー、ジャンヌ・モロー、リノ・ヴァンチュラ、ポール・フランクール、ミシェル・ジュールダン、ドラ・ドル、デリア・スカラ
言うまでもなくフレンチ・フィルム・ノワール屈指の名作ですが、まだこのブログに記事を書いてなかったこともあって再見。
久々にこの名作を堪能しました。
なんとも味わい深い、素晴らしい作品です。
ご存知の通り、ストーリー的にはそれほど大きな起伏のある作品ではありませんが、これほど男同士の友情関係の深さを如実に描いた映画も珍しいのではないでしょうか。
“男の友情”と一言で言っても、ここで描かれているマックス(ジャン・ギャバン)とリトン(ルネ・ダリー)の関係は、昨日今日の関係ではない、腐れ縁的な長年の友人関係です。
よって、今さらお互いに喜怒哀楽を声高に叫ぶような関係ではありませんが、それだけに二人の深い友情関係がジワリと滲み出るような作品となっています。
例としては、マックスのアパルトマンにリトンが寝泊りするシーンでの、歯ブラシを貸したりベッドを譲り合ったりといった一見何気ない描写の中に、二人の関係の深さがさり気なくも表現されているように思います。(長い付き合いの友人のいる人なら分かるはず!)
もちろん、素晴らしいラストシーンは言うまでもありません。
あらゆる映画の中でも最も素晴らしいラストシーンの一つでしょう。
この映画は、ナイトクラブ、カフェなど、夜のパリの風情が描かれているのも作品の大きな魅力の一つです。
しかし、個人的に、好きなシーンをいくつか挙げるとするならば、女に情報を漏らしてしまったルネ・ダリーをギャバンが諫めながら飲み食いするシーン。(右画像)
あの会話のなんとも言えない間の良さ。
そして、ルネ・ダリーの拉致が発覚した後、ギャバンがジャンヌ・モローら3人にビンタを連発するシーン。
あのギャバンのコワさ、迫力。
そして、ダニエル・コーシー(メルヴィルの『賭博師ボブ』『この手紙を読むときは』に出演)をギャバン、フランクールらが地下室で拷問するシーンでの陰影深い映像の魅力等々…です。
それと、ビンタといえば、この映画はところどころにバイオレンスシーンがありますが、決してこれ見よがしのバイオレンスシーンだったり、血生臭かったりするわけではなく、物語として必然性のある、いかにも説得力があるバイオレンスシーンとなっている点も是非指摘しておきたいところです。
キャストでは、ジャン・ギャバンの良さは今さら言うまでもありませんが、他にも、ポール・フランクールが実にいいです。
この俳優の眼鏡姿は珍しいと思いますが、今回見直してみて、演技、存在感ともに、改めて、いいなぁと思いました。
ポール・フランクールはこの時代のジャン・ギャバンの出演作品に必ずと言ってよいほど出演していますが、後には、メルヴィルの『ギャング』(66)にもファルディアーノ警視役で出演していますので、これも必見。
先に挙げた、ギャバンとの腐れ縁的友人を演じるルネ・ダリーは、一見、加藤芳郎か野口英世といった風貌がいかにも地味ですが、演技は役柄に実に合っていますね。
表情の演技など実に上手く、かなりの演技巧者だと思います。
また、出演している女優陣も無名ながら美人ぞろいで、一番有名なジャンヌ・モローがデビュー間もないこともあってか、実は一番イモ姉ちゃんに見えます。
とりわけ、ギャバンの愛人ベティ役を演じたマリリン・ビュフェルは美人ですね。
この人は生粋のアメリカ人で、ミス・アメリカにも選ばれたことがあるとか。
ラストの屈託のない笑顔も良く、個人的に、この作品を観る楽しみは、マリリン・ビュフェルを観る楽しみでもあります。
ところで、ポール・フランクールの奥さん役の女優は、ジャン・ギャバンの最初の奥さんギャビー・バセット。
ギャビーといえば、あの『望郷』(37)を思い起こしますが、もしかしたら何かつながりがあるのでしょうか。
そして、リノ・ヴァンチュラがこの映画で俳優デビューし、敵役を堂々と演じています。
後年の貫禄ぶりに比べると少々青臭く見えるのは仕方ありませんが、それにしても、映画初出演とはとても思えぬ演技と存在感です。
最後に監督のジャック・ベッケル。
この作品を観ていますと、俳優の演出に、独特の間の持ちがあるように感じられます。
これがまた、なんともいえないタメとリズムを作品にもたらしているように思えました。
セリフを極力省いたシーンの緊張感の持続と説得力も見事です。
それくらいこの作品のジャン・ギャバンの醸し出す深みのある存在感、そしてこの燻し銀の魅力ですよね。
燻し銀という言葉は、この役柄のジャン・ギャバンにあるのではないかと思うくらいにぴったりだと思いますし、この魅力には、どんな女も痺れてしまうと思います。
一見非情のようで、実は情味があって、そして深みのあるこの渋さを出せる俳優は、名優ハンフリー・ボガートと、このジャン・ギャバンだけではないでしょうか。
また全編を覆うモノクロ映画ならではの夜の雰囲気がいい感じですね。
そして哀愁漂うテーマ曲『グリスビーのブルース』がいつまでも心に染みります…。
メルヴィルを始め、往年のフランス映画やアメリカのフィルム・ノワールのほか、JAZZ、松田聖子など好きな音楽についても綴っています。
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