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最近観た映画というわけではありませんが、仏フィルム・ノワールの傑作『男の争い』『DU RIFIFI CHEZ LES HOMMES』(55)を紹介したいと思います。(ネタバレは極力避けています)
原作:オーギュスト・ル・ブルトン、監督:ジュールス・ダッシン、撮影:フィリップ・アゴスティーニ、脚本: ジュールス・ダッシン、オーギュスト・ル・ブルトン、ルネ・ウェレル、美術:アレクサンドル・トローネル
映画のストーリーですが、5年の刑期を終え出所したトニー・ステファヌワ(ジャン・セルヴェ)が、仲間に誘われて宝石強盗を計画、実行するのが映画の前半。
トニーの昔の女を巡って、ナイトクラブのオーナー、ピエールとの確執から、双方の争いへと発展するのが映画の後半です。
共に宝石強盗に挑むのは、ジョー(カール・メーナー)、マリオ(ロベール・マニュエル)、金庫破りの名人であるイタリア人、セザール(監督のジュールス・ダッシン本人)。
一方、昔の女絡みで、トニーと対立するナイトクラブのオーナー、ピエール(マルセル・リュポヴィシ)、ヤク中毒の弟レミ(ロベール・オッセン)、ピエールの手下にデビュー間もないピエール・グラッセ(『マンハッタンの二人の男』『ギャング』)。
女優陣も粒揃いで、トニーの元愛人で、現在はピエールの愛人に収まっているマドー(マリー・サブレ)、セザールが惚れるクラブのダンサーのヴィヴィアン(マガリ・ノエル)、ジョーの妻(ジャニーヌ・ダルセイ)、マリオの妻(クロード・シルヴァン)など。
この作品、現在では紀伊国屋書店よりDVDが発売されていますし、ビデオレンタルも大手のところでは見掛けます。
メルヴィルの『賭博師ボブ』などと同様、ジョン・ヒューストンの『アスファルト・ジャングル』からの大きな影響を受けたと思われる“押し入り強盗もの”です。
あるインタビューにおいて、メルヴィルが「『男の争い』はもともと私が監督するはずだったんだ」と語ったという記事を読んだ記憶がありますが、真偽のほどは分かりません。
実際のところ、メルヴィルがこの作品を気に入っていたのは事実のようです。
キャストでは、なんといっても、主演のジャン・セルヴェの中年男の魅力が素晴らしい。
風貌はどこか指揮者のカラヤンを彷彿とさせる二枚目ですが、雰囲気というか佇まいがなんとも渋く、魅力的です。
この人の出演作は、他に『美しき小さな浜辺』(48)『ガラスの城』(50)『宿命』(57)『熱狂はエル・パオに達す』(59)などがありますが、個人的に観たものでは、ベルモンド主演の『リオの男』(63。監督:フィリップ・ド・ブロカ)ぐらいしか思い浮かびません。
他に配役の点で特筆すべきは、監督のジュールス・ダッシン本人が、重要な役であるセザールを演じていることでしょう。
しかし、彼はもともと役者を目指して演技の勉強をしていたくらいですから、ここで俳優として出演しているのも決して不思議ではないのです。
この作品のおいて、正装したセザールが宝石に下見に行き、金庫を発見するシーンなど、『仁義』のイヴ・モンタン演じるジャンセンのそれを予見するシーンだと言えるでしょう。(ジャンセンは警報システムの場所などをチェックします)
事実、ダッシン監督は、この作品の後も自らの監督作品に俳優としても出演しているようです。
ちなみに、私はダッシン監督の他の作品ではハリウッド時代の『深夜復讐便』、『裸の街』を観ていますが、どちらもきびきびとしたテンポが心地良い素晴らしいサスペンスです。
中でも『裸の街』はニューヨークの街でのロケ撮影が印象的な作品ですが、そのロケ撮影の巧みさは、この『男の争い』でも存分に発揮されています。(もちろん、こちらの舞台はパリ)
赤狩りによって、ハリウッドを追われ、フランスに来て撮ったのがこの作品だったとのことで、ダッシン監督は、この作品で55年のカンヌ映画祭において監督賞を受賞しています。
そして、この作品は、宝石強盗のシークエンスが凄い。
床に穴を開け、下階に降りて宝石店を襲うというアイデアはもちろん、傘などの小道具を実に巧く利用しているのに感嘆させられます。
この間、セリフは全くありませんが、置き時計や、男たちの目配せや汗が(間違えて鳴ってしまうピアノの音までも!)緊迫した状況を見事に表現しています。
宝石店の天井に穴が開いて、そこから上階のほの暗い明かりが見えるシークエンスが美しく、実に印象的。
個人的に、唯一この作品で苦手な点は、ストーリーに子供の誘拐が絡んでくるところです。
これは私の個人的な趣向の問題なのですが、どうもこういったサスペンスものに子供が絡んでくると落ち着かないというか、居心地の悪さを感じてしまうのです。
しかし、他は文句の付けようのない見事な作品だと思います。
メルヴィルを始め、往年のフランス映画やアメリカのフィルム・ノワールのほか、JAZZ、松田聖子など好きな音楽についても綴っています。
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