忍者ブログ
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

東京近代美術館フィルム・センターに『いぬ』の上映を観に行ってきました。
生誕100年 川喜多かしことヨーロッパ映画の黄金時代』という大規模な企画上映中の一篇として上映されたものです。

実はメルヴィル作品をスクリーンで観るのは初めてなので、他の人の反応を感じながらメルヴィル作品を観る経験も初めてなのです。
その意味でもかなり新鮮な経験でした。

お盆休み中ということもあり、客入りが心配でしたが、上映30分前の入場時には100人超の行列ができており、上映時には300席以上ある客席もほぼ満席でした。
入場料が500円と安いせいもあるのか、客層は40~70歳程度の年配の男性がほとんどです。
若い人が少なかったのが意外でした。

今回の上映は、ロベール・アンリコ監督の62年の作品『ふくろうの河』が併映でした。
30分程度の短編で、私も初めて観ましたが、ドキュメンタリー・タッチのなかなかの傑作です。

ところで、今回上映の『いぬ』のプリントですが、字幕の感じからいいまして、日本初公開時のプリント(もしくはそのコピー?)だと思われます。
気になるプリントの状態は、コマ飛びもところどころあり、あまり良い状態とは言えません。
併映の『ふくろうの河』(同じく62年の作品)のプリントの状態がなかなか良かったので、これはちょっと残念でした。

また、その時代のまんまという感じの字幕の表記は、味はあるものの、さすがに少々読みづらく、字幕の翻訳も、内容を分かりやすくするために良くも悪くも説明的になっているような感じがしました。
映画冒頭の『道はひとつ。死ぬか、または、嘘をつくか』というテロップの部分が、『今日こそヤツを殺(バラ)してやる』というような字幕になっており、まるで(ジルベールを殺そうという)モーリスの独り言のようになっているのは疑問でした。

そして、今回の上映で一番驚いたのは、オープニングのポール・ミスラキのテーマ音楽が、DVD(国内、輸入問わず)のバージョンとは明らかに異なるバージョンであったことです。
曲、メロディ、構成などはほとんど同じなのですが、現行バージョンのハードボイルドな雰囲気は薄く、ストリングスが多用され、もっとエレガントな雰囲気に仕上がっていました。

いぬ』におけるポール・ミスラキの音楽は、メルヴィルの要請で何度か書き直しを命ぜられたらしいのですが、(私の想像ですが)もしかしたら、現行バージョンになる前の音楽が使われているプリントが日本公開時にフランスから送られてきたのかもしれません。
個人的に、これは現行バージョンの音楽の方がはるかに良いと思いました。

今回、『いぬ』という作品を久々に集中して観ることができたのですが、やはりこの作品は傑作だと改めて感じましたね。
確かに初めて観る人にはわかりにくい作品であることは間違いないですが、その欠点を帳消しにするだけの雰囲気、パワーに溢れた作品だと思います。
スクリーンで観たせいでしょうか、これまで観ていた以上にベルモンドが魅力的に思えました。

PR

このところ、紀伊国屋書店から発売されているDVD(クリティカル・エディション)でサイレント映画の名作数本を観ました。
例によって、気の利いた感想は書けませんが、簡単なメモを残したいと思います。
(基本的にネタバレはありません)

image127.gifまず最初に観たのが『サンライズ』。
F・W・ムルナウというドイツ人監督がハリウッドで撮った作品とのことです。

DVDのパッケージに「世界一美しい映画」というトリュフォーの言葉が印刷されております。
いくらなんでもそれは言い過ぎでは?名作ってことでの過大評価では?と漠然と感じつつ観始めましたが、観た後の感想では、トリュフォーの言葉も当たらずも遠からず。
決して嘘ではないと思いました。

もうこれだけでこの映画がどれほど魅力的な映画かは多少は想像いただけると思うのですが、なにはともあれ、ストーリーが分かりやすいので親しみ易く、「難しい」「観にくい」「暗い」「とにかく古い」といったサイレント映画に対する偏見を(私だけかもしれませんが)捨てさせてくれただけでも大収穫です。

image128.gif撮影技術も想像以上に高いようで、嵐のシーンの映像表現とかなかなか凄くて、とてもこの時代のものとは思えないほど。
それと、ジョージ・オブライエンジャネット・ゲイナーという主演の夫婦役の二人もビジュアル面でもさほど古さを感じさせず、良かったです。
ちなみに、奥さん役のジャネット・ゲイナーは第一回アカデミー賞主演女優賞を受賞した人だとか。(複数作で受賞とのこと)

紀伊国屋から出ているDVDは値段が高いのが玉に瑕ですが、特にこのクリティカル・エディションはホントに手間のかかっている品質の高いものが多いようです。
特に古い映画ほど、他盤との画質の違いは大きいですから、この作品のDVDなども、持っていれば一生モノだと思います。
そういう意味ではこのレーベルの価格は(今の価格で維持している限りは)決して高くないのでは?と思い始めています。

某家電量販店にてDVDを3枚まとめて買ってきました。
どれも8月7日にユニバーサル・ピクチャーズから発売されたばかりのものです。
ユニバーサル・ピクチャーズの関連ページ

●『雨のしのび逢い』 (61年、ピーター・ブルック監督、ジャンヌ・モロー、ジャン=ポール・ベルモンド主演)
●『大追跡』 (66年、ジェラール・ウーリー監督、ブールヴィル、ルイ・ド・フュネス主演)
●『追悼のメロディ』 (77年、アンリ・ヴェルヌイユ監督、ジャン=ポール・ベルモンド、マリー=フランス・ピジェ主演)

どれも初DVD化にかかわらず、1500円という廉価盤なのが嬉しいところですが、家電量販店では20%オフでしたので、3枚買っても3600円でおさまりました。(加えて10%のポイントが付きました)
ユニバーサル盤DVDは、以前紹介した『影の軍隊』を始め、字幕に問題が多いようですが、今回発売のものはどうでしょうか。

ところで、『影の軍隊』といえば、昨年発売され、すぐに売り切れたこの作品のDVDもようやく再発売されました。
見てみたところ、昨年発売されたものとパッケージは全く同じもののようでしたので、DVDの内容も変わらないと思われます。

予想通り、パッケージ裏の紹介文の明らかな誤り(「ルクの弟ジャン(ジャン=ピエール・カッセル)の裏切りによってアジトが急襲されるに及んで組織は逼迫」という部分)も直っていません。
(ユニバーサル・ピクチャーズ・ジャパン盤『影の軍隊』の字幕の問題点、パッケージの問題点につきましては、以前書きましたこちらこちらの記事を参照下さい)

それと、今回発売のユニバーサル・ピクチャーズの廉価盤DVDには、購買層に内容を分かりやすく知らせようという狙いからか、「帯」の部分に★マークで内容が紹介されています。
5つの観点について5点満点で評価されており、例えば、今日買ってきた『大追跡』では、「車旅行度★★★」「大笑い度★★★★」という感じです。

今日買った作品に関しては、未見なので、その評価についてはなんとも言えませんが、『影の軍隊』に関しては、「レジスタンス度★★★★」で、なぜ5点でなく4点なのか?と首を傾げたくなりましたし、「非情度★★★」という低めの評価に関しては、担当者は本当に映画を観ているのか?と疑問を持ちました。

ともあれ、今回も初回生産限定盤のようですので、お持ちでない方は早めに購入されることをお薦めいたします。

Criterion盤DVD仁義』の特典映像に収録されている『Excerpts from Morceaux de bravoure』と題されたジャン=ピエール・メルヴィル監督のインタビュー映像を翻訳して何回かに分けて紹介します。
これは、フランスのテレビ局に残された映像らしく、放送日が1973年5月7日と、メルヴィル監督の最晩年の姿が記録された貴重なものです。(監督はこの年の8月2日に他界)

インタビュアーの名前は不詳ですが、映像の冒頭に“Directed by : Jean-Paul Sassy”とクレジットがありますので、もしかしたら、この人かもしれません。
ちなみに、Jean-Paul Sassyは、あの『死刑台のエレベーター』のスクリプターも務めており、50年代はアンドレ・カイヤット監督の『裁きは終わりぬ』などで助監督、60年代以降は主にTV映画の監督を務めている人のようです。 

ここでは、『仁義』の知られざる製作秘話が語られます。


image116.gif質問: ジャン=ピエール・メルヴィルさん、アメリカ映画に対するあなたの情熱を知らぬ者はいません。
あなたに影響を与えたアメリカ映画、ポリス・スリラーはありますか?
また、あなたに影響を与えたそれらの映画の古典的なシーンはありますでしょうか?

メルヴィル(以下M): 私に影響を与えたと言う以前に、私を最も魅了した2本のアメリカのポリス・スリラーがあるんだ。
24年前のとても古い映画だが、『アスファルト・ジャングル』と、もう少し新しいものでは1959年の映画『拳銃の報酬』の2本だよ。
(訳注:『アスファルト・ジャングル』1950年の映画で監督はジョン・ヒューストン、『拳銃の報酬』の監督はロバート・ワイズ)
「古典的なシーン」について言えば、最初に挙げた『アスファルト・ジャングル』での、宝石店強盗シーンがそうだね。

私は1951年にこの映画を観た。
しかしながら、1950年の夏、午前3時にヴァンドーム広場を散歩していた時、私は映画でブシュロン宝石店からの強奪シーンを描くことができないだろうかと考えていたんだ。
その当時、 モーブッサン宝石店は、まだヴァンドーム広場で営業を始めてなかったのでね。
(訳注:『仁義』ではヴァンドーム広場のモーブッサン宝石店が襲われる)

私はラ・ペ通りをぐるりと回り、ダニエル・カサノヴァ通りに出た。
そしてカサノヴァ通りのロビーの入り口の全ての呼び鈴を押したのさ。
7番目か8番目の建物で、ドアは開いた。
私は1つの中庭を横切り、そして次の中庭を渡った。
私はいくつかの階段を見つけ、それらを登った。
上まで登ると、屋根に通じている天窓と、壁に向かって掛けられている梯子を見つけた。
私は梯子を天窓のある小さい屋根裏の下に置くと、その梯子を上り、天窓を開けて、ブシュロン宝石店の屋根に這い出たんだ。
だから、映画でブシュロン宝石店の強奪シーンを描こうとするなら、この中庭を通らせようと思ったのさ。
おそらく通常なら、バスルームを通ろうとするだろう -  パリの大部分の建物の設計に従えばね。

友人と一緒に出かけた、この夜の探検旅行の後、実際、私は家に帰ってから『仁義』の宝石店強盗の全体のシーンの脚本を書いた。
それは夏だった…1950年8月のことだ。
ところが、1950年の終わり、あるいは1951年早くに、『アスファルト・ジャングル』という、宝石店が強盗に襲われる映画が公開された。
当然、私はすでに書き始めていた脚本を脇に置いて、そして、『アスファルト・ジャングル』が人々の記憶から消え去るまで、何年もの間それに触れないことに決めたんだ。

ところが、その2年か3年後に『男の争い』が公開された。(訳注:1955年の映画で、監督はジュールス・ダッシン)
宝石店でのもう一つの強盗事件を描いた映画だ。
このことが、『仁義』を1970年へと追いやったんだ。
撮るまでに20年かかったんだよ。
20年の間、私はこの2つの映画のために宝石店強盗を撮らなかったんだ。
このことからも、優れたアメリカのポリス・スリラーを観ることが、私にとって、いかに大きな影響を与えたかが分かるだろうね…なにせ自分の撮りたい映画を撮ることを阻止したんだからな。


この項続く。

Criterion盤DVD仁義』の特典映像に収録されている助監督ベルナール・ストラのインタビューの翻訳を長々と紹介してきましたが、このインタビューの紹介も今回で最終回となります。
英語字幕を参考にしたとはいえ、映像にして30分に及ぶインタビューを訳出することは私にとってはかなりの難事業で、実際のところは誤訳もさぞや多いことだろうと思われますが、ご明察、ご了解の上、お読みいただけたらと思います。

ベルナール・ストラは、『仁義』だけでしかメルヴィル監督とかかわりがありませんが、このインタビューを読みますと、メルヴィルという人を実に客観的に理解しているという印象があります。
メルヴィル監督の人となり、映画への取り組み方などがある程度はご想像いただけるのではないでしょうか。


師の教え

image115.gif私は、映画を制作する希望や夢を持っていたあの時期に、メルヴィルから学んだことは次のようなことだと思っています - つまり、大切な事は撮影の場に集中するということです。

アイデアは、当然ですが、さまざまな時に浮かぶものです。
そのアイデアを展開させ、映画のことを総体的に考えることもできるわけですが、事が本当に起こるのは、セットの中でのある一瞬なのです。
メルヴィルから学んだことは、映画撮影とは、決して既定の事実に沿ったものではないということです。

ある1日の映画撮影においては- 各撮影のために、エネルギーと創造力を生み出さねばなりません。
あるシーンの細部を仕上げ、次の段階へと移る前に、そこには常に撮影のためにできる何かがあるのです。
新しいアイデアを捻出するのに遅すぎるということはありません。
当然、周囲の人々は「もっと早くそのことを考えなかったんですか?」というような不満を言うでしょう。
けれどもそれは重要ではありません。

長い時間を共に働いている現場のスタッフに対してきつく当たるべきではありませんが、何より重要なことは、新しいことを常に試みようとすることなのです。
それが映画を決して型通りとはしないのです。

メルヴィルはその点が見事でした。
彼にはアイデア- それも真のアイデア- がありました。
彼は、ただ映画を撮っただけではなく、この業界をも揺り動かしたのです。


この項終わり。

Criterion盤DVD『仁義』の特典映像に収録された、助監督ベルナール・ストラのインタビューの翻訳の続きです。
今回はコーレイ役を演じたアラン・ドロンと、ジャンセン役を演じたイヴ・モンタンに関する内容が主です。


2人の優秀な弟子

image113.gifドロンは伝説的な俳優、スターでした。
彼には独特のリズムがあり、驚かされました。
彼は何時に自分の撮影があるかを尋ねると、その時間に撮影所に車で乗り付けてセットに現れ、撮影をし、去っていったものです。
その行動は非常に独特であり、全然仲の良い友人の群れという感じではないのです。
その行動には幾分緊張感がありましたが、騒ぎを起こすようなことはしませんでした。

ましてや、メルヴィルの撮影現場で誰かが大声を上げたりするようなことは起こりません。
メルヴィル自身、人をどなるようなことはしませんでしたが、時に不当に、そして少々理不尽なほど、ただひたすら厳しい要求を出したので、現場のスタッフの間には自然と緊張感がありました。
そして、人は、緊張している時に限って、緊張していなかったら起こらなかったであろう愚かな失敗をするものなのです。

image114.gifイヴ・モンタンは非常に穏やかな人でした。
大変節度をわきまえ、 他人に威圧感を与えるような行動はしませんでした。
彼はメルヴィルと仕事をすることを喜び、誇りに思っていました。
ええ、メルヴィルの宇宙に入ることを誇りに思っていたのです。
モンタンは『仁義』でとても良い演技をしています。
彼にとってピッタリの役で、彼はその役を演じることに喜びを感じていました。
演技で特に苦しむこともなく、メルヴィルに悩まされることもありませんでした。
彼はユーモアをもって、メルヴィルと付き合ったのです。

メルヴィルは変わった人で、撮影中よく腹を立てるわりに、我々二人きりになった時、「Kiddo、なんで私を止めてくれなかったんだ?」と私に言ったものです。
私はまだ若造でしたが、 メルヴィルは私よりずっと年長でした。
私は助監督であり、彼は偉大な監督でした。
彼について知っておかなければならなかったことは - 彼には大いにユーモアのセンスがあったので、自身の馬鹿さ加減に気づいた時には、すぐさま正気に戻ることが可能な人間だったということです。
本当に複雑な人でした。


次回がこのインタビューの翻訳の最終回となります。

Criterion盤DVD『仁義』の特典映像に収録された、助監督ベルナール・ストラのインタビューの翻訳の続きです。


苦悩した俳優

image112.gifジャン・マリア・ヴォロンテの場合、ことはさらに厄介でした。
彼はまったくメルヴィルを好きになれず、また、その感情はお互い様だったのです。

『仁義』でのヴォロンテは実に素晴らしい演技です。
彼は、素晴らしい俳優であり、すごい男なのです。
けれども彼はメルヴィルから影響されることに抵抗しました。
言うまでもなく、メルヴィルに抵抗などしたら、最悪の事態を招きますが、ヴォロンテは確信犯的にトラブルを起こしました。
手に負えなくなったヴォロンテは、確か1日か2日の間、撮影に穴を開けたと思います。

このことで、アラン・ドロンが大変上手く状況を処理したとことを記憶しています。
ドロンは特にヴォロンテと親しかったわけではありませんが、彼がヴォロンテを撮影に連れ戻したのでした。
彼はこう言ってヴォロンテを口説いたのです、「映画の撮影を始めた以上は、それをやり遂げる義務がありますよ。」
ヴォロンテは、仮にそのまま映画を降板したら、拘置所で残りの人生を棒に振る心積もりすらしていました。

image111.gifヴォロンテとメルヴィルは、うまくいきませんでした。

二人は非常に異なった人間だったのです。
ヴォロンテは厳しく身動きの取れない状態に陥りました。
そのことで彼はとても悩んでいたと思います。

そういうことが好きではなかった彼は、この種のゲームを続けることを望んでいませんでした。
彼は何をして良いのか分からなかったのかもしれません。
ただ、それで彼が良い演技をしなかったわけではないのです。
時には抵抗することが良い場合もあります。
各々が、時には逆説的な方法で、自分なりのやる気や原動力を持っている限りにおいては…。


次回は、コーレイ役のアラン・ドロン、ジャンセン役のイヴ・モンタンについてです。

[133] [134] [135] [136] [137] [138] [139] [140] [141] [142] [143]
テンプレ作った人:おみそ
今すぐブログ始めるなら:[PR]

PR:忍者ブログ
ブログ内検索
プロフィール
HN:
マサヤ
性別:
男性
趣味:
フランス映画、ジャズ
自己紹介:
フランスの映画監督ジャン=ピエール・メルヴィル監督作品のファンサイト附属のブログです。
メルヴィルを始め、往年のフランス映画やアメリカのフィルム・ノワールのほか、JAZZ、松田聖子など好きな音楽についても綴っています。
リンク、コメント、TB等はご自由にどうぞ。
カテゴリー
最新コメント
[04/14 マサヤ@管理人]
[04/10 mon]
[11/07 マサヤ@管理人]
[11/06 mon]
カウンター
忍者AdMax
NINJA TOOLS
アーカイブ