[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
明けましておめでとうございます。
決して更新も多いとは言えないこのブログですが、今年もよろしくお願いいたします。
さて、新年一回目の更新は、米フィルム・ノワールの古典的名作の一つである『アスファルト・ジャングル』『The Asphalt Jungle』(米 50年)の紹介です。
監督:ジョン・ヒューストン、原作:W・R・バーネット、脚本:ジョン・ヒューストン、ベン・マドー、撮影:ハロルド・ロッソン、出演:スターリング・ヘイドン、ルイス・カルハーン、サム・ジャフェ、マリリン・モンロー他
ルイ・ノゲイラ著「サムライ」には、メルヴィルがこの映画に言及し、「『アスファルト・ジャングル』は間違いなく世界でいちばん申し分のない映画の一つだ」とピエール・グラッセと話し合ったという話が出てきますし、他にも至るところで、この映画の素晴らしさ、自分の映画作りへの影響について語っています。
この映画の、押し入り強盗で宝石を奪うというアイデアが、メルヴィルの『賭博師ボブ』、『仁義』あたりに多大なる影響を与えていることは言うまでもなく、メルヴィル自身、『賭博師ボブ』は『アスファルト・ジャングル』の焼き直しだと言っているくらいです。
ただ、押し入り強盗のシーン自体は『アスファルト・ジャングル』全体の中ではそれほど大きなウエイトを占めているわけではなく、それを実行する登場人物たちの人間性が短い描写の中に見事に描かれている、しかも、実にユーモアに富んでいるのが大きな魅力でしょう。
とりわけ、サム・ジャフェ演じる強盗団のリーダーであるドックの颯爽とした紳士ぶり、サラリと「悪事に大小はない」と語るスマートさが印象的。
それと裏腹に(?)大の女好きなところもまたなんとも面白く、ラストの「2、3分・・・」のくだりなど、もう最高ですね。
ルイス・カルハーン演じる弁護士エメリックも、ふとした表情の移り変わりの演技が見事で、役柄の人間性丸出しの名演。
他にも、競馬好きで荒々しい人間性の用心棒ディックス(スターリング・ヘイドン)、そのディックスに惚れている水商売の女ドール(ジーン・ヘイゲン)、家族思いの金庫破りルイ(アンソニー・カルーソ)、小心者で金を見ると汗を掻くノミ屋コビー(マーク・ローレンス)、運転手役で背中にコンプレックスを持っている小男ガス(ジェームズ・ホイットモア)、ノミ屋に出入りしている悪徳警官、その上司のコミッショナー、エメリックの私設探偵ブラノンなど、誰もが実に個性的かつ印象的なのです。
また、デビュー間もないマリリン・モンローがエメリックの愛人アンジェラ役で出ていますが、彼女らしい個性を既に発揮して好演しています。
『アスファルト・ジャングル』において、メルヴィル作品に影響を与えていると思われるシーンをいくつか挙げてみましょう。
まず、『アスファルト・ジャングル』冒頭の面通しのシーンです。
これが『サムライ』の面通しシーンに影響を与えていることは間違いないでしょう。
そして、宝石店への押し入り強盗の後、警備員をディックスが殴り、その勢いで警備員の拳銃が暴発してルイに当たるというシーンがありますが、『仁義』のビリヤード場の場面(アラン・ドロンがリコの手下に脅されるシーン)にも同じような状況が出てきます。
ラスト近くで、コミッショナーが「警察に悪徳警官がいても何ら不思議ではない 腐敗と戦ううちに自分も腐敗する」と私見を述べるシーンがありますが、これも『仁義』において監査局長が「警官を含めあらゆる人間は有罪なり」という考え方を述べるところにも影響を与えているように思われます。
また、『影の軍隊』において、リノ・ヴァンチュラ演じるフィリップ・ジェルビエが、ロンドンにて空襲を逃れてダンスホールに逃げ込み、そこで、若者たちのダンスを見つめるというシーンがあります。
このシーンではセリフも全くありませんし、一見しただけでは、よく分からない、といいますか、どんな意味のあるシーンなのか理解しがたいシーンだと思うのですが、このシーンを撮った際、メルヴィルの頭の中には、『アスファルト・ジャングル』ラスト近くで、女性のダンスを見つめるドックのシーンのことがあったと個人的には思っています。(もちろん、その二つのシーンは、映画の中での意味合いにおいて全く違いますが…)
ところで、個人的に、『アスファルト・ジャングル』のジュークボックスの音楽に合わせてのダンスのシーンは、映画の中でも、最も印象的なシーンです。
ダンスを踊る女性は特別美人でもないのですが、そのぶっちゃけたような踊りが観る者を惹きつけてやみません。
とりわけ、ダンスをする女性を捉えていたキャメラが徐々に窓の外へと注がれ、そこに警官が二人覗き込んでいる…というシーンはゾクゾクするほど素晴しいですね。
ダンスを見つめるサム・ジャフェの視線の演技も見事です。
もちろん、ルイス・カルハーン演じるエメリックが、強盗に成功したドックとディックスを妾宅に招き入れて、裏切りを図ろうとするシーンも、4人の思惑の様が緊張感を持って捉えられていて印象的なシーンです。
私もこの映画はもうDVDで5回以上は観ていますが、とにかく何度観ても楽しめるサスペンス映画史上の大傑作。
ハロルド・ロッソンによるいかにもノワール的な照明技術、メルヴィルも再現しようとしたという見事な美術(セドリック・ギボンズ)も特筆に価するでしょう。
国内DVDの画質も最高です。
明けましておめでとうございます。
本年も宜しくお願いいたします。
昨年はいろいろ勉強させていただきました。
実は…
『影の軍隊』ってワタシ 未見&サントラも聴いてないんですよ。子供の時に見たチラシの暗いイメージとタイトルの重さのせいか知らず知らずのうちに疎遠の作品となってました。
こちらで記事いろいろ読ませていただき今年はその封印をといてみようかなって思い始めてます。
逆に、有名製作者ドア・シャリーは、教授の発音が間違いで、ドーリ・シャリーが正しいのではないかと思いますが。
MGMのシャリーの製作方法については東宝社長だった森岩雄(1899-1979)の『映画製作の実際』(1976。紀伊國屋書店)が参考になります。『アスファルト・ジャングル』DVDの音声解説で談話が引用されているジェイムズ・ホイットモア主演のウェルマン監督作『The Next Voice You Hear...』(50)の撮影見学の話が出てきます。シャリー製作、ウェルマン監督、ホイットマン出演のウェルマンの傑作『戦場』(49)は500円DVDでも出ているのでお勧めします。
ちなみにシャリーが企画したMGMの社会派ノワールでは、アンソニー・マンの『Border Incident』(49)はジョン・オルトンの撮影が出色で、『アスファルト・ジャングル』以上に暗い画面に驚かされます。製作はニコラス・スケンクの甥ニコラス・ネイファック(1909-58)です。
音声解説では、天井が異常なまでに移り込むことに言及してほしかったです。月並みな言い方ですが、バロック的構図はオーソン・ウェルズを思わせます。
ヒューストンのもう1本のMGM作品『勇者の赤いバッジ』(51)も名作ですが、撮影はロッソンです。スティーヴン・クレインの『赤い武功章』(1895。岩波文庫)を原作とするこの映画は、製作背景を記録した「ニューヨーカー」誌のリリアン・ロス(27- )の『Picture』(52)というベストセラーで有名ですが邦訳はなし。映画も日本では短縮版が公開されたきりでしたが、DVDが出ています。
ハロルド・ロッソンをキャスパー教授はハロルド・ローゾンと発音していますが、たぶん間違いだと思います。細かいことを言えば、昨年の生誕100年を期にクラシック畑で注目度の高まっているミクロス・ローサは正しくはミクローシュ・ロウジャ。ハンガリー人なので表記は難しいところですが。
本編字幕で気になったのは、ジョン・マッキンタイア扮する警察署長の「コミッショナー」という表記。「警察署長」のことだと思うのですが、アメリカの警察事情に疎いのであまり自信ありません。
マッキンタイア出演のノワールではダニエル・マナリングとクレイン・ウィルバー脚本の『無警察地帯』(55)が面白いですが、世界的に正規ソフトは出ていません。
『アスファルト・ジャングル』の脚本家の一人ベン・マドウの脚本作では、BBSのNo.634にも書いた『最前線』(57。「フロント」はフィリップ・ヨーダン)が忘れがたいです。
マドウは、グレン・フォードが戦闘のトラウマで精神異常になるサイコ西部劇『コロラド』(48。500円DVDがあります)のように、強迫観念にとりつかれた偏執的人物像を得意とするようです。ヒューストンの『許されざる者』(60)もわりと好きです。
ちなみにMGMの美術部長セドリック・ギボンズ(1893-1960)は、1500本ほどの映画に美術でクレジットされていますが、実際に手がけたのはその10分の1ほどと言われています。
『アスファルト・ジャングル』でギボンズと連名でクレジットされているランドール・デュエル(03-92)は、アメリカのテーマパークの大半をデザインした建築家だそうです。『郵便配達は2度ベルを鳴らす』(46)の美術も手がけています。ロッソン撮影、ジーン・ヘイゲン出演の『雨に唄えば』(52)の美術も彼です。
http://www.rouge.com.au/rougerouge/singin.html
メルヴィルを始め、往年のフランス映画やアメリカのフィルム・ノワールのほか、JAZZ、松田聖子など好きな音楽についても綴っています。
リンク、コメント、TB等はご自由にどうぞ。