[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
今回は、ジャン=ピエール・メルヴィル監督のファンサイトのブログらしく(?)、監督作の『マンハッタンの二人の男』(58年)に焦点を当ててみます。
気づいてみれば、この作品について、このブログでこれまで一度も取り上げてきませんでしたが、実は最近、観る度に好きになってきている作品がこれなのです。
今や、メルヴィルの全作品中でもベスト5、いやベスト3に入るほど好きな作品となっています。
あのゴダールも、「カイユ・デュ・シネマ」誌の59年ベスト10では、この作品を2位に挙げているとのことです。(1位はロベール・ブレッソン監督の『スリ』)
物語は、フランス国連代表の失踪の謎を解明するために、二人のフランス人ジャーナリストが一晩中、代表の失踪に関係のありそうな女性を次から次へと捜し歩くという、分かりやすくシンプルなものですが、深夜のニューヨークの街の表情が実に生々しく捉えられており、それが作品の大きな魅力となっています。
後のマーティン・スコセッシ監督の『タクシー・ドライバー』(76)に観られるような、車中から見える深夜のNYの街の表情がすでにここでモノクロームの映像に見事に記録されているという点にも注目すべきでしょう。
ストーリーにレジスタンスを絡めているのもメルヴィルらしい。
サントラも傑作で、ビッグ・バンドを使ったクリスチャン・シュヴァリエのメロディアスなジャズが映画を実に魅力的に彩っています。
主演は、二人のジャーナリストにメルヴィル本人とピエール・グラッセ。
映画の詳しいデータに関しましては、こちらを参照下さい。
ご存知のように、この作品は必ずしもメジャーな作品ではありません。
フランス本国でも公開当時全く当たらなかった作品ですし、日本でも、80年代に一部で一般公開され、また、現在ではDVDのソフトも存在するものの、後のジャン=ポール・ベルモンド、リノ・ヴァンチュラ、アラン・ドロン主演作のような一般的な知名度もなく、ほとんど無視されていると言った方が良いかもしれません。(もちろん、このブログでも一度もこれまで取り上げてこなかったわけですから、人のことなど言えた義理はないのですが)
ご存知のルイ・ノゲイラ著「サムライ」(井上真希訳 晶文社刊)を読みますと、なによりメルヴィル監督自身が、この作品については「大したことのない映画」「却下するよ」と全く評価していません。
しかし、この作品は初期のメルヴィル作品らしく、低予算、ロケ撮影、ジャズ、無名キャスト(なんといっても主演の一人がメルヴィル監督自身!)など、まさにヌーヴェル・ヴァーグそのものと言ってよいような作品です。
作品全体にそこはかとなく漂うユーモア、B級志向(?)もなんともいえません。
オープニング・クレジットでシュヴァリエ作曲のテーマ音楽がアップ・テンポになるところぐらいからもう観ていてワクワクしてきます。
この映画、国連代表に関係ある4人の女性を訪ね歩くシークエンスもそれぞれに面白く、個人的にも好きなシーンはたくさんあるのですが、一つだけ例を挙げますと、映画中盤で、グラッセとメルヴィルの二人が一息つくために入る場末のダイナー(カウンターバー)のシーンを挙げたいと思います。
そこで、音楽がそれまでのビッグ・バンドからヴィヴラフォーンを使った編成の小さなものへと変わり、映画にどことなく深夜特有の倦怠感が漂い始めます。
そのシークエンスでは(おそらくパリでセット撮影されたものでしょうが)、主演の二人を含め、店主や他の客の姿に、大都会の夜にうごめく人々の生態が短いながらも印象的に描写されており、ひどく魅力的なのです。
とりわけ、客の警官に、子供がシャドウ・ボクシングの真似事をするシーンは、茶目っ気たっぷり。
そして、すでに指摘しましたように、日本では奇跡的に国内DVDが紀伊国屋書店から発売されています。
“奇跡的”と書きましたが、これもまんざら嘘でもありません。
なぜなら、どうやら外国ではこの作品のDVDは発売されていない模様だからです。
なんと、アメリカのAmazonでは、日本の国内盤DVDが輸入盤として売りに出されています。
それどころか、いろいろな国のAmazonを見てみますと、外国ではこの作品VHSソフトさえも発売されていないという可能性もありそうです。
日本では、幸運なことに、VHSのビデオレンタルも存在しており、都内の大型レンタルショップではよく見かけますので、鑑賞環境としては世界的にも恵まれていると言えそうです。(DVDのレンタルはありません)
メルヴィル作品では、『海の沈黙』『賭博師ボブ』『モラン神父』『ギャング』『リスボン特急』など、他にも国内においてDVD化されていない重要作がいくつもあるにもかかわらず、どういうわけか、日本ではこの作品だけDVD化されているのは、不思議な気がします。
その上、幸か不幸か、画質、パッケージ、封入された冊子などのプロダクション的な意味では、日本におけるメルヴィル作品のDVDで、最も“マシ”なDVDがこの作品ではないでしょうか。
それだけに値も張りますが(定価5040円)、メルヴィルに、また、この作品に少しでも関心のある方には、廃盤にならないうちに是非手に入れて欲しいと思います。
とにかく、著名なスター不在という理由だけで、今一つ観る気にならないという方には是非にと薦めたい映画です。
もちろん、映画史に残るような大傑作を想像されては困りますが、作品の雰囲気、空気感がとても魅力的な作品なのです。
メルヴィルを始め、往年のフランス映画やアメリカのフィルム・ノワールのほか、JAZZ、松田聖子など好きな音楽についても綴っています。
リンク、コメント、TB等はご自由にどうぞ。