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d9b1d838.jpeg明けましておめでとうございます。
決して更新も多いとは言えないこのブログですが、今年もよろしくお願いいたします。

さて、新年一回目の更新は、米フィルム・ノワールの古典的名作の一つである『アスファルト・ジャングル』『The Asphalt Jungle』(米 50年)の紹介です。

監督:ジョン・ヒューストン、原作:W・R・バーネット、脚本:ジョン・ヒューストン、ベン・マドー、撮影:ハロルド・ロッソン、出演:スターリング・ヘイドン、ルイス・カルハーン、サム・ジャフェ、マリリン・モンロー他

ルイ・ノゲイラ著「サムライ」には、メルヴィルがこの映画に言及し、「『アスファルト・ジャングル』は間違いなく世界でいちばん申し分のない映画の一つだ」とピエール・グラッセと話し合ったという話が出てきますし、他にも至るところで、この映画の素晴らしさ、自分の映画作りへの影響について語っています。

この映画の、押し入り強盗で宝石を奪うというアイデアが、メルヴィルの『賭博師ボブ』、『仁義』あたりに多大なる影響を与えていることは言うまでもなく、メルヴィル自身、『賭博師ボブ』は『アスファルト・ジャングル』の焼き直しだと言っているくらいです。
ただ、押し入り強盗のシーン自体は『アスファルト・ジャングル』全体の中ではそれほど大きなウエイトを占めているわけではなく、それを実行する登場人物たちの人間性が短い描写の中に見事に描かれている、しかも、実にユーモアに富んでいるのが大きな魅力でしょう。
とりわけ、サム・ジャフェ演じる強盗団のリーダーであるドックの颯爽とした紳士ぶり、サラリと「悪事に大小はない」と語るスマートさが印象的。
それと裏腹に(?)大の女好きなところもまたなんとも面白く、ラストの「2、3分・・・」のくだりなど、もう最高ですね。
ルイス・カルハーン演じる弁護士エメリックも、ふとした表情の移り変わりの演技が見事で、役柄の人間性丸出しの名演。

他にも、競馬好きで荒々しい人間性の用心棒ディックス(スターリング・ヘイドン)、そのディックスに惚れている水商売の女ドール(ジーン・ヘイゲン)、家族思いの金庫破りルイ(アンソニー・カルーソ)、小心者で金を見ると汗を掻くノミ屋コビー(マーク・ローレンス)、運転手役で背中にコンプレックスを持っている小男ガス(ジェームズ・ホイットモア)、ノミ屋に出入りしている悪徳警官、その上司のコミッショナー、エメリックの私設探偵ブラノンなど、誰もが実に個性的かつ印象的なのです。
また、デビュー間もないマリリン・モンローがエメリックの愛人アンジェラ役で出ていますが、彼女らしい個性を既に発揮して好演しています。

『アスファルト・ジャングル』において、メルヴィル作品に影響を与えていると思われるシーンをいくつか挙げてみましょう。

まず、『アスファルト・ジャングル』冒頭の面通しのシーンです。
これが『サムライ』の面通しシーンに影響を与えていることは間違いないでしょう。
そして、宝石店への押し入り強盗の後、警備員をディックスが殴り、その勢いで警備員の拳銃が暴発してルイに当たるというシーンがありますが、『仁義』のビリヤード場の場面(アラン・ドロンがリコの手下に脅されるシーン)にも同じような状況が出てきます。
ラスト近くで、コミッショナーが「警察に悪徳警官がいても何ら不思議ではない 腐敗と戦ううちに自分も腐敗する」と私見を述べるシーンがありますが、これも『仁義』において監査局長が「警官を含めあらゆる人間は有罪なり」という考え方を述べるところにも影響を与えているように思われます。

また、『影の軍隊』において、リノ・ヴァンチュラ演じるフィリップ・ジェルビエが、ロンドンにて空襲を逃れてダンスホールに逃げ込み、そこで、若者たちのダンスを見つめるというシーンがあります。
このシーンではセリフも全くありませんし、一見しただけでは、よく分からない、といいますか、どんな意味のあるシーンなのか理解しがたいシーンだと思うのですが、このシーンを撮った際、メルヴィルの頭の中には、『アスファルト・ジャングル』ラスト近くで、女性のダンスを見つめるドックのシーンのことがあったと個人的には思っています。(もちろん、その二つのシーンは、映画の中での意味合いにおいて全く違いますが…)

ところで、個人的に、『アスファルト・ジャングル』のジュークボックスの音楽に合わせてのダンスのシーンは、映画の中でも、最も印象的なシーンです。
ダンスを踊る女性は特別美人でもないのですが、そのぶっちゃけたような踊りが観る者を惹きつけてやみません。
とりわけ、ダンスをする女性を捉えていたキャメラが徐々に窓の外へと注がれ、そこに警官が二人覗き込んでいる…というシーンはゾクゾクするほど素晴しいですね。
ダンスを見つめるサム・ジャフェの視線の演技も見事です。

もちろん、ルイス・カルハーン演じるエメリックが、強盗に成功したドックとディックスを妾宅に招き入れて、裏切りを図ろうとするシーンも、4人の思惑の様が緊張感を持って捉えられていて印象的なシーンです。

私もこの映画はもうDVDで5回以上は観ていますが、とにかく何度観ても楽しめるサスペンス映画史上の大傑作。
ハロルド・ロッソンによるいかにもノワール的な照明技術、メルヴィルも再現しようとしたという見事な美術(セドリック・ギボンズ)も特筆に価するでしょう。
国内DVDの画質も最高です。

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ジャン=ピエール・メルヴィル監督が好きだった、もしくは高く評価していたと思われる映画作品のリストを挙げて見ます。
(年代順、名前は監督名)
これらのリストはルイ・ノゲイラ著『サムライ』などのさまざまな書物等から得た情報を元にしています。
もちろん、大のアメリカ映画ファンでもあったメルヴィルが好きだった戦前のアメリカ映画はおそらくは数知れず、ここに出ているのはほんのごく一部だと考えられます。
特に評価が高かった、または影響の大きかったと思われる作品は太線にしてあります。

『南海の白影』(28 W・S・ヴァンダイク、ロバート・J・フラハティ
6d5fc21c.jpeg『市街』(31 ルーベン・マムーリアン)
『カヴァルケード』(33 フランク・ロイド)

『とらんぷ譚』(36 サッシャ・ギトリ)
『大いなる幻影』(37 ジャン・ルノワール)
『風と共に去りぬ』(39 ヴィクター・フレミング)
『陽は昇る』(39 マルセル・カルネ)

『市民ケーン』(41 オーソン・ウェルズ)
『拳銃貸します』(42 フランク・タトル)
『天国は待ってくれる』(43 エルンスト・ルビッチ)
『天井桟敷の人々』(45 マルセル・カルネ)
『アスファルト・ジャングル』(50 ジョン・ヒューストン)

『禁じられた遊び』(52 ルネ・クレマン)
『拳銃の報酬』(59 ロバート・ワイズ)
『勝手にしやがれ』(59 ジャン=リュック・ゴダール)
『スリ』(59 ロベール・ブレッソン)
『穴』(60 ジャック・ベッケル)
『裸の島』(60 新藤兼人)

『噂の二人』(61 ウィリアム・ワイラー)
『暗くなるまで待って』(67 テレンス・ヤング)
『俺たちに明日はない』(67 アーサー・ペン)
『夜の大捜査線』(67 ノーマン・ジェイソン)
『ひとりぼっちの青春』(69 シドニー・ポラック)
『雨のなかの女』(69 フランシス・フォード・コッポラ)
『クレムリン・レター 密書』(70 ジョン・ヒューストン)
『告白』(70 コンスタンタン・コスタ=ガヴラス)

『バニシング・ポイント』(71 リチャード・サラフィアン)
『脱出』(72 ジョン・ブアマン)
『大いなる勇者』(72 シドニー・ポラック)

e303b200.jpegここにきて、また『仁義』のリメイク話が世間を賑わせているようです。
今度は、ジョニー・トー監督、オーランド・ブルーム主演によるものらしく、ハリウッドの製作によるものになるとのこと。
つい先日、オーランド・ブルームが香港に乗り込んで、ジョニー・トー監督と打ち合わせをした模様です。
こちらこちらのブログに記事が出ています。

『仁義』のリメイクといえば、数年前にジョン・ウー監督によるリメイク話が出ていましたが、それからトンと話を聞かなくなりました。
どうやら、その話はボツになったようですね。
そして、ジョニー・トー監督といえば、アラン・ドロンと映画を撮るという話でしたが、こちらもどういうわけか、それから続報を聞くことはありませんでした。

それが今回、何がどうなったのか、ジョニー・トー監督が『仁義』をリメイク、主演はオーランド・ブルームという流れです。
オーランド・ブルームは、オリジナルでアラン・ドロンが演じたコーレイを演じることになるのでしょう。
強盗犯に襲われるパリの宝石店も、香港の宝石店へと設定が変わるようです。
正直言いまして、恥ずかしながら、私はジョニー・トー監督作品もオーランド・ブルーム主演作も観ていませんので、今回のリメイクの話についてはなんとも言えませんが、このことで、メルヴィルの作品が再び映画ファンに注目されるのであれば、大いに歓迎したいですね。

また続報が分かりましたら、お知らせします。

p13663.jpg『凶悪犯』『BRIGADE ANTI-GANGS』という映画を紹介します。
原作オーギュスト・ル・ブルトン、監督ベルナール・ボルドリー、撮影アンリ・ペルサン、音楽ミシェル・マーニュ、出演ロベール・オッセン、レイモン・ペルグラン、ピエール・クレマンティ
1966年のフランス映画、カラーです。

この作品は当時、日本では『凶悪犯~ギャング特捜隊十人の刑事~』というタイトルで公開されたようです。
監督のベルナール・ボルドリーは、エディ・コンスタンティーヌ主演のレミー・コーション・シリーズや、リノ・ヴァンチュラ主演の『情報(ネタ)は俺が貰った』などの監督で、60年代にはミシェール・メルシエ主演で『アンジェリク』五部作を監督、フランスで大ヒットを飛ばしました。
この五部作は、公開当時、日本では第1作のみしか公開されなかったようなのですが、調べてみますと、現在ではなんと全5作がDVDボックスで発売されています。
これにはホント驚きました。(Amazonへのリンク

ちなみに、撮影のアンリ・ペルサンは『アンジェリク』五部作すべてのキャメラを担当していますが、あの『史上最大の作戦』のキャメラもワルター・ウォティッツ(『リスボン特急』)らと共に担当していたんですね。
また、音楽のミシェル・マーニュもやはり『アンジェリク』五部作すべての音楽を担当していますが、他の作品にあの『地下室のメロディ』、『冬の猿』、『太陽は知っている』、ブレッソンの『白夜』などがあります。
この作品ではジャズを前面に出した音楽ですが、それがノワール的な作風によく合います。
ビッグ・バンド&オルガンという組み合わせのテーマ音楽も魅力的。

45a090f9.jpegところでこの『凶悪犯』という映画、これまで存在すら知りませんでしたが、大手レンタル店でたまたま見かけ、借りてみました。
パッケージのノワール的雰囲気と、なにかとメルヴィル絡みのキャストに興味津々だったからです。
刑事役のロベール・オッセンの出演作は『殺られる』(エドゥアール・モリナロ監督)ぐらいしか観た記憶がありませんが、あの『ギャング』に出ていたレイモン・ペルグランの出演作、しかも主演クラスの映画が観られるというのが大きかったのです。
そして、この映画の撮られた年(66年)はベルグラン出演の『ギャング』が撮影され、公開された年でもあります。
つまり、ほぼ同時期の作品ということになるのです。

また、あのピエール・クレマンティまで出ていますし、なんとレイモン・ペルグランの奥方役がシモーヌ・ヴァレール、あの『リスボン特急』でリカルド・クッチョーラの奥方を演じた彼女なのです。(彼女は、私生活ではあのジャン・ドサイの奥方です)
『リスボン特急』よりも6年前に撮影した作品ですから、かなり若く見え、上品な美しさがよく分かります。

イエイエの元アイドルという役柄のピエール・クレマンティは、あの『昼顔』(ルイス・ブニュエル監督)に出演した年であり、あのイメージそのままの弾けた印象なのが嬉しいですね。

そして、ロベール・オッセンの部下の刑事役には、メルヴィルの『この手紙を読むときは』に主演していたフィリップ・ルメールまで出ています。
他の部下の刑事よりも為所のある重要な役で、着ているジャケットも色目の違う洒落たものを着て、他の刑事たちとは一線を画しています。

肝心の内容ですが(ネタバレは避けます)、レイモン・ペルグランらの強盗団と刑事たち、そして、ペルグランの娘の彼氏役のクレマンティの若者集団との関わりが興味深く、かなり面白いものでした。
また、ロベール・オッセンの弟が、サッカー、フランス代表チームのエース・ストライカーという設定がなかなか面白いです。
正直言いまして、いわゆる大傑作の類の作品ではないと思いますが(時間も85分程度と短め)、内容も比較的分かりやすいので、この手のノワール作品がお好きな方には観て損のない映画でしょう。

前回の字幕検証記事に対しまして沢山のコメントをいただきましてありがとうございました。
その中から、Fauxさんからいただいたコメントを参照させていただきますと、ジャン=フランソワが兄のリュック・ジャルディと食事するシーンでの私の字幕検証に明らかな誤りがあったようです。
私は、東北新社盤DVDとキネマ旬報シナリオを元に、ジャン=フランソワは「兄よりもマチルドの方を身近に感じる」という解釈の方が正しいのでは?と述べましたが、どうやらUPJ盤の「兄をとても身近に感じる」という方が正しいようです。
訂正してお詫びいたします。

さて、個人的に、今回のUPJ盤DVDの字幕で一番問題と思われるのは、ジャン=フランソワがドイツ軍に逮捕された後にドイツ軍の士官に尋問されるシーンではないかと思います。
このシーンの前に、ジャン=フランソワは、デュポン氏なる人物を“レジスタンスと関係がある”と密告する手紙を出すわけですが、そもそもデュポン氏とは誰かという解釈によって、映画の意味合いが大きく変わってきます。

まず、今回のUPJ盤の字幕を見てみましょう。
ジャン=フランソワがゲシュタポ本部の士官の前に連行される直前に、ドイツ軍の下士官の言葉があるのですが、その部分からです。

UPJ盤
下士官の声 『この男は?』
別の下士官の声 『匿名のタレコミです』
下士官(士官に向かって) 『匿名の密告者です』
(略)
士官 『デュポンをよく知っているんだね』
ジャン=フランソワ 『もちろんです』
士官 『君の組織の名は?』
ジャン=フランソワ 『何のことですか?』
士官 『言わないつもりかね 君の消息が途絶えてしまってもいいんだな』

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このUPJ盤の字幕においては、明らかにドイツ軍士官は、ジャン=フランソワを、デュポン氏なる人物を密告した人間、つまり、デュポン氏とは全くの別人として捉えていると解釈できるでしょう。

次に東北新社盤の字幕です。

東北新社盤
下士官の声 『誰だ』
別の下士官の声 『投書にあった男です』
下士官 (士官に向かって)『問題の男を連行』
(略)
士官 『デュポンというのは偽名だろう』
ジャン=フランソワ 『違います』
士官 『どんな組織に属している』
ジャン=フランソワ 『何の話ですか』
士官 『とぼけるな このまま銃殺になればお前は誰にも知られないぞ』

東北新社盤の字幕では、UPJ盤とは異なり、ドイツ軍士官は、デュポン氏=ジャン=フランソワとして捉えているというように解釈できます。
ただ、ジャン=フランソワの『違います』という受け答えは、否定肯定どちらとも捉えられないこともなく、その意味で問題がありますが、大筋では大きな問題ではないでしょう。

この二つの字幕の違い、解釈の違いは大きな問題ではないでしょうか。
なぜなら、UPJ盤字幕の解釈では、ジャン=フランソワが、デュポン氏なるレジスタンス活動家を密告する、卑劣な裏切り者となってしまいます。
一方、東北新社盤の解釈では、デュポン氏=ジャン=フランソワ、つまり、ジャン=フランソワは自らを密告したのだということが理解できます。
この部分は、ジョゼフ・ケッセルの原作にはない、この映画のオリジナルな部分ですが、それだけに、『影の軍隊』という映画作品を理解する上で、とても重要な部分だと思われますので、この違いは看過できません。

ちなみに、『キネマ旬報』のシナリオはこうなっています。

『キネマ旬報 1970春の特別号 NO.520』シナリオ
下士官の声 「こいつは何者だ?」
フランス人ゲシュタポ 「密告で捕まった奴ですよ」
下士官 「密告によってたい捕された奴であります」(原文ママ)
(略)
士官 「デュポンというのは、おまえの偽名だろう?」
ジャン=フランソワ 「まあね」
士官 「おまえが属する組織は?」
ジャン=フランソワ 「何の話ですか?」
士官 「トボケると、ためにならんぞ。おまえは偽名のまま銃殺されて、行方不明という扱いになるんだぜ……」

このシナリオの解釈が、東北新社盤の字幕の解釈に近いことは明らかですが、この部分は重要ですので、念には念を入れて、クライテリオン盤の英語字幕を見てみたいと思います。

クライテリオン(Criterion)盤
下士官の声 「Who is this man?」
別の下士官の声 「The man denounced in the letter.」(注:「denounced」=告発された)
この後ドイツ語の英語字幕なし。
士官 「Naturally, Dupont is the only name you have.」
ジャン=フランソワ 「Naturally.」
士官 「What organization are you with?」
ジャン=フランソワ 「I don't understand.」
士官 「You know the risk you're taking? Being shot under a false name. Your fate would remain a mystery.」

「the only name」という表現が気になるところですが、「唯一の名前」という意味ではなく、“名前だけ”または“上辺の名前”、つまりは“偽名”という意味として捉えられると思います。
ですから、士官の言葉の意味は、「当然、デュポンというのはお前の偽名だな」ということになりますし、ジャン=フランソワの返事は、「もちろんです」という意味になると思います。
この解釈は、「キネマ旬報」のシナリオの解釈と全く同じと考えてよいでしょうし、大筋では東北新社盤の字幕の解釈と同じと考えてよいでしょう。

第一、ドイツ軍士官は、ジャン=フランソワをデュポン氏本人だと認識するからこそ、「おまえの属する組織は?」と問うわけでしょう。
UPJ盤の字幕のように、ジャン=フランソワとデュポン氏が別人だとすれば、ドイツ軍士官は、ジャン=フランソワに対し、デュポン氏の属する組織を問い質すべきだと思いますが、なぜか、ジャン=フランソワ自身が属する組織を問うているのは不思議です。

ちまみに、本『サムライ』(ルイ・ノゲイラ著 井上真希訳 晶文社刊)においては、メルヴィルに対してノゲイラが、「なぜジャン=フランソワは、映画では、ゲシュタポに自分で自分を告発する匿名の手紙を送るのですか?」と問うている箇所もあります。

クライテリオン盤DVD『影の軍隊』ブックレットにはこのインタビュー部分の英訳も載っていますが、それは以下の通りです。
「WHY, IN THE FILM, DOES JEAN-FRANCOIS SEND THE GESTAPO THE ANONYMOUS LETTER DENOUNCING HIMSELF?」(注:「ANONYMOUS」=匿名の、「DENOUNCE」=告発する)
この部分を読む限り、翻訳本の訳に問題は全くないと考えられるでしょう。
この言葉の意味は、もちろん、東北新社盤、『キネマ旬報』シナリオ、クライテリオン盤と同じく、“デュポン氏=ジャン=フランソワ”という解釈と重なるものです。

つまり、今回のUPJ盤の字幕は明らかに誤りだと思われます。
UPJ盤の字幕を読む限り、ジャン=フランソワは、レジスタンス活動から身を引き、その上、デュポン氏なるレジスタンス活動家をも密告した卑劣な裏切り者として解釈されます。
なるほど、UPJ盤のパッケージの裏側には、「ジャン(ジャン=ピエール・カッセル)の裏切りによってアジトが急襲されるに及んで組織は逼迫。」なる記述があります。
おそらく、日本盤製作担当者が、この字幕を観た上で文章を書いたのでしょう。
このシーンの後に、ジェルビエらにアジトとして敷地を貸していたタロワール男爵が銃殺されたというナレーションの入るシーンがありますので、担当者は、もしかすると、デュポン氏をタロワール男爵と誤解して捉えているのかもしれません。
今回のUPJ盤DVDで、初めてこの作品を観る人も多いと思われますが、この字幕によって、(担当者と同様に)映画の内容を誤解する恐れがあるということは大変残念なことだと言えましょう。

このブログでも何度かお知らせしていますが、先日、ユニバーサル・ピクチャーズ・ジャパンから『影の軍隊』の新しい国内盤が発売になりました。
一番気に掛かるところは画質が良いのか否かというところだと思うのですが、HPのDVDのページに書きましたように、撮影監督ピエール・ロム監修によって修復されたマスターが使われており、その点に関しては、まずは満足の行くものではないかと思われます。

さて、このブログでは、当DVDのもう一つのの大きな問題として、字幕の問題を何回かに分けて取り上げようと思います。
とはいえ、通常、私は字幕を検証しながら映画を観るという行為はほとんどしません。
英語仏語ともにダメですので、字幕から得る情報に頼り切りなのが実情で、その内容が正しいか否かを検証する余裕など全くと言ってよいほど無いからです。
しかし、今度のDVDを観ていて特に気になったのは、それまで観ていた東北新社盤DVDとの字幕の相違がなにかと目に付くという点でした。
今回のDVDは、東北新社盤とは全く異なる新しい字幕ですので、表現の違いはあってもむしろ当然ですが、それどころか、字幕一つによって、映画の内容、ストーリー、観る側の解釈まで変わってきかねない問題を含んでいる部分があると感じたのです。
そう思われる、いくつかのポイントについて、東北新社盤DVDの字幕と照らし合わせながら検証してみたいと思います。

とはいえ、この映画はフランス映画ですから、本来であれば、フランス語の音声が聞き取れればごく単純な問題なのですが、不幸にも当方にはその能力がありませんので、このような紛らわしい方法を取らざるを得ないことをお詫びいたします。

また、二つの字幕で意味合いが異なっていると思われる点については、時にはクライテリオン盤の英語字幕や、「キネマ旬報 1970 NO.520」に掲載された、三木宮彦氏による『影の軍隊』のシナリオ、または本『サムライ』(ルイ・ノゲイラ著 井上真希訳 晶文社刊)も交え、検証してみたいと思います。
もちろん、一瞬で観客に言葉の意味を伝えなくてはならない字幕と、一字一句記載してあるシナリオとは言語表現がある程度は異なって当然ですが、それだけに、シナリオには、字幕には表れない細かいニュアンスが表現されていることが多く、参考になると思われるからです。

まず、当DVD(以下UPJ盤)においては、以下のように、東北新社盤とは役の名前の表記が異なるものがありますが、これは少々違和感こそありますが、さして大きな問題ではないでしょう。

東北新社盤:リュック・ジャルディ→UPJ盤:ルク
東北新社盤:マチルド→UPJ盤:マチルダ

まず、検証してみたいのは、映画冒頭に登場するクールトリーヌの言葉の字幕です。

d94364bf.jpegUPJ盤
『“悪しき思い出もまた懐かしきなり”』

東北新社盤
『この映画の登場人物は実在し 事件は事実にもとづいている』

全く意味の内容が違いますが、東北新社盤はひどい間違いです。(これに関してはちゃんとフランス語辞書を引いて調べました)
UPJ盤は間違いではありませんが、本『サムライ』の翻訳が一番丁寧で、原文に近いと思われます。

『サムライ』(ルイ・ノゲイラ著 井上真希訳 晶文社刊)
『いやな思い出だ!しかし、ようこそ、はるか彼方の青春時代よ』

それに比べ、今回のUPJ盤は意味は伝わるものの、少々大雑把な印象も残ります。

次に、ジャン・フランソワが兄のリュック・ジャルディを訪ねて一緒に食事をするシーンでのジャン・フランソワの独白についてです。

b7d6f47f.jpegUPJ盤

『なぜだろう わからない 大好きな兄さんを僕はとても身近に感じた 一緒に過ごした記憶なんてほとんどないのに』

東北新社盤
『兄よりマチルドの方がよほど身近な感じがした 昔から愛してきた兄よりだ 思い出以外に共通点がないからか』

真逆といってよいほど意味が違います。
ちなみに、『キネマ旬報』のシナリオはこうです。

キネマ旬報シナリオ
「マチルドを知ったことは、僕に苦痛をもたらした。彼女が兄よりちかしくなることはないかしら。僕はもちろん変わりなく兄を愛している。しかし、共通点はない。」

多数決を取るつもりはありませんが、これを見る限り、今回のUPJ盤のニュアンスは間違っているのではないかと思われますがいかがでしょうか。

次に、イギリスに着いたリュック・ジャルディとフィリップ・ジェルビエが、自由フランス軍のパッシー大佐と会見するシーンにおける、パッシー大佐のセリフの字幕です。

2bb0e34e.jpegUPJ盤
『武器の調達は無理だった イギリスはわが国のレジスタンスに理解がないし 武器は自国に取って置きたいんだ 私が通信面で協力しよう 無線士を多数 送りこむ また人を差し向けて滑走路を直すことを約束する』

東北新社盤
『武器を全部は送れない 我が国はレジスタンス運動に期待していないし 航空機はドイツ爆撃に回したい だが通信網は強化しよう 相当数の無線要員を派遣する 着陸可能地も増やしたい その対策要員も送る』

東北新社盤の字幕は、まるでパッシー大佐(自由フランス軍)がイギリス人であるかのような表現となっています。
その意味でも、今回の字幕の方が良いと思いますが、後半の方などは東北新社盤の方が丁寧な訳という印象もあります。

今回はとりあえずこんなところですが、次回は、今回のUPJ盤DVDの字幕で最大の問題点と思われる、ジャン=フランソワがドイツ軍に捕まったシーンについて検証する予定です。

『サムライ』といえばアラン・ドロンのソフト帽にトレンチコート姿の印象が大変強いのではないでしょうか。
実際、ドロンが『サムライ』でトレンチコートを着ていたシーンは、殺し屋に陸橋の上で銃撃されるまでの映画前半だけなのですが、なにか映画の中でずっと着ていたような強い印象すら残ります。

今回は、『サムライ』におけるアラン・ドロンのトレンチコートの着こなしや、その特徴を中心にメルヴィル作品におけるトレンチコートの特徴などについて述べてみたいと思います。
専門用語も使いますが、それについては、アクアスキュータムのページ(リンク)を参考になさるとよろしいかと思います。

最近はシングル・タイプのトレンチも街角でよく見かけますが、メルヴィル作品に登場するのはまずほとんどがダブルのタイプのものです。
もちろん、ダブルの方が主流といいますか、本流でしょう。
トレンチコートの特徴の一つに、ベルトが挙げられると思いますが、登場人物たちはきちんとベルトを留めています。
当然のことながら、最近街でよく見かける、後ろでベルトを結ぶような変則的(?)なことはしません。

エポーレット(肩章)もトレンチの特徴の一つですが、例えば、アラン・ドロンは『サムライ』ではエポーレットのあ8015f65c.jpegる伝統的なタイプ、『仁義』ではエポーレットのないタイプのものを着ています。
両作品でのソフト帽の有無も含め、おそらくは役柄のイメージの重複を避けたためでしょう。
素材はおそらく、綿100%、ないしは、綿ポリ混のものと思われます。
画像でお分かりだと思いますが、『仁義』で着用していたものは『サムライ』のものに比べ少しヨレっとしており、綿ポリ混の可能性が高いでしょう。
着る人が着ると、このヨレっとした感じがまた格好良いのですけどね。

ところで、トレンチコートで有名なところでは、バーバリー、アクアスキュータム製のものが有名です。(ハンフリー・ボガートがアクアスキュータム製のものを愛用していたのは有名)
デザインもこの二つのブランドのものが完成形と言ってよく、実物を見ても、他のブランドのものとは桁違いの、問答無用の貫禄、オーラがあります。(それだけに値も張りますが)
実際のところ、メルヴィル作品に出てくるトレンチコートのブランドはどこが多かったのでしょうか?

インナーのチェック模様によって、ハッキリ識別できたものは次のもの。

●『サムライ』ジャック・ルロワ着用(バーバリー)
●『リスボン特急』リチャード・クレンナ着用(アクアスキュータム)、マイケル・コンラッド着用(バーバリー)

8931282b.jpegそして、『サムライ』におけるアラン・ドロンです。
『サムライ』においてアラン・ドロンが着ているトレンチコートは極めて伝統的なデザインのもので、我々がトレンチコートに持っているイメージに非常に近いものです。
襟は立てられ、ベルトももちろんきちんと締められています。
全体のシルエットは細めであり、着丈は膝丈ぐらいでどちらかというと短めに感じられます。(これはドロンの高い身長のせいもあるかもしれません)
見た目、ダブついた感じがなく、体によく合っていると思います。
『サムライ』でドロンが着用していたトレンチはどこのブランドのものだったのでしょう?
たいていインナーのチェック模様で判別できるのですが、ちょうど取り調べの最中に他の容疑者とコートを取り替えるシーンでインナーの模様が映るシーンがあります。
残念ながら、インナーのチェック模様ではどこのものかハッキリ判別できませんが、デザインを検証する限り、ズバリ、アクアスキュータム製のものである可能性が極めて高いと私は思っています。

その理由は以下の通り。

右肩前方部分のガンフラップが小さいこと。

757108e6.jpeg近年のアクアスキュータムのトレンチコートはどういうわけかガンフラップが大きく、第2ボタンにかかるくらい下にきてしまっていますが(↑で紹介したアクアスキュータムのページのものもそうです)、昔のアクアスキュータムのトレンチコートは、ガンフラップは小さかったのです。
『リスボン特急』でのリチャード・クレンナ着用のアクアスキュータムのトレンチを参考。

襟(後ろ)部分についているスロートタブがボタン留めになっている点。

例えばバーバリー製のものはスロートタブがストラップ留めになっています。
ボタン留めになっているのはアクアスキュータムのトレンチコートの特徴の一つです。

左右のストームポケットに、ボタンが上下二つある点。

上の部分と下の部分に二つボタンがあるのはアクアスキュータムのトレンチコートの特徴の一つです。

背翼がまっすぐ横一直線になっていること。

この点もアクアスキュータム製トレンチコートの特徴の一つ。
0d3fef46.jpeg例えばバーバリーのものはなだらかにU字型を描いているものが多いです。
ただ、アクアスキュータムでは、一時的にアンブレラカットという傘の形を模したものが売られていたこともありました。(数年前に私が購入したものもそうです)
ちなみに、『いぬ』においてジャン=ポール・ベルモンドが着用していたトレンチはアクアスキュータム製ではないと思われますが、その背翼はアンブレラカットです。
また、このベルモンドのトレンチは、襟部分のスロートタブがストラップ留めになっていることが画像でお分かりいただけるでしょう。

このように、『サムライ』において、アラン・ドロンが着用していたトレンチコートは、エポーレット(肩章)やボタンの位置、形状など、他の部分もアクアスキュータム製トレンチコートの特徴と完全に一致しますので、その可能性は非常に高いと思います。
ただ、我々が知らないブランドだとかショップもパリには当然あるわけで、それ以外のブランドのものである可能性ももちろん否定はできません。
他に、『ギャング』のラストにおいてリノ・ヴァンチュラが着ていたトレンチコートもアクアスキュータム製のものと特徴が一致しますので、私はそうではないかとにらんでいます。

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プロフィール
HN:
マサヤ
性別:
男性
趣味:
フランス映画、ジャズ
自己紹介:
フランスの映画監督ジャン=ピエール・メルヴィル監督作品のファンサイト附属のブログです。
メルヴィルを始め、往年のフランス映画やアメリカのフィルム・ノワールのほか、JAZZ、松田聖子など好きな音楽についても綴っています。
リンク、コメント、TB等はご自由にどうぞ。
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