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フリッツ・ラング監督の『無頼の谷』を国内盤DVD(ジュネス企画)で観た感想です。
『Rancho Notorious』(52年)
監督:フリッツ・ラング
脚本:ダニエル・タラダッシュ
撮影:ハル・モーア
音楽:エミール・ニューマン
出演:アーサー・ケネディ、マレーネ・ディートリッヒ、メル・ファーラー、ロイド・ガフ、グロリア・ヘンリー、ウィリアム・フローリイ、ジャック・イーラム、ジョージ・リーヴス
フリッツ・ラングがアメリカ時代に撮った西部劇で、観てみると思ったよりは違和感がない。
ただ、冒頭に流れる復讐の歌(?)は、これがあのフリッツ・ラングの作品か?と思うほどの意外性があるし、ジョン・フォードやハワード・ホークスのような西部劇とはかなり趣向が異なる。
確かに西部劇なのだが、手法はフィルム・ノワール的なのだ。
途中で展開が微妙に変化して主題が分かりにくくなるのが玉に瑕だが、内容はかなり面白い。
フリッツ・ラングのアメリカ作品に同じドイツ出身のマレーネ・ディートリッヒが出ているのがミソだが、さすがの存在感。
『黒い罠』『情婦』など、この手の作品に出てくるディートリッヒはほとんど怪優といってよいような、他には得がたい独特の味わいを醸し出している。
メル・ファーラーのスマートな存在感が良く、それに比べると主演のアーサー・ケネディは少々分が悪い。
嫌いじゃないけど。
最後の撃ち合いはなかなか良かった。
『恐怖省』(44年、監督:フリッツ・ラング、出演:レイ・ミランド、マージョリー・レイノルズ)を観た感想です。
グレアム・グリーンの原作を映画化したもので、第二次大戦中のイギリスを舞台に、ある男がふとしたキッカケで謎の秘密結社の陰謀に巻き込まれていくというお話。
これは実に面白いスパイ・スリラーです。
いわゆる“巻き込まれ型スリラー”で、現代の我々の眼からはヒッチコックを思い起こさせる作品ですが、むしろヒッチコックの方がラングに影響されているのでしょう。
冒頭のバザーの占い師やケーキの重さ当てクイズのシーンからもう怪しさ満載で、全く目が離せません。
とりわけ、降霊会のシーンの不気味さ、映像美(?)は名場面といってよいのではないかと思います。
これまでラング作品に感じていた重苦しさも、この作品には、良い意味で少なめで、主演のレイ・ミランドも実に良いですね。
これまで観たフリッツ・ラング監督の作品中でもとりわけ好きな作品です。
●『暗黒街の弾痕』(37年、監督:フリッツ・ラング、出演:ヘンリー・フォンダ、シルヴィア・シドニー)を観た感想です。
フリッツ・ラングらしい重厚なサスペンス。
個人的にヘンリー・フォンダがもともと苦手なのだが、この映画でもその印象は変わらず。
この映画の彼は誰かに似ていると思ったら、ロベール・ブレッソン監督の『スリ』の主演俳優マルタン・ラサールに顔も佇まいもソックリだということに気づいた。
映画は後半、ボニー&クライド的な逃避行となる。
主演女優のシルヴィア・シドニーの美しさで多少は救われるが、映画の内容は重苦しく、観終わった後、ちょっと胃にもたれる。
それにしても、邦題は意味不明。
アンリ・ヴェルヌイユ監督の『冬の猿』を国内盤DVD(東北新社盤)で観た感想です。
『UN SINGE EN HIVER』(62年)
監督:アンリ・ヴェルヌイユ
原作:アントワーヌ・ブロンダン
脚色:フランソワ・ボワイエ
台詞:ミシェル・オーディアール
撮影:ルイ・パージュ
音楽:ミシェル・マーニュ
出演:ジャン・ギャバン、ジャン=ポール・ベルモンド、シュザンヌ・フロン、ガブリエル・ドルジア、ポール・フランクール
2度目の鑑賞。
ずっと観直したかった作品の一つ。
意外にもギャバン、ベルモンド唯一の共演作となった作品で、この二人が出ているせいでしょうか、たまに、“フィルム・ノワール”に分類されることもある作品ですが、実際は全くそういった要素は感じられず、同じアンリ・ヴェルヌイユ監督の『ヘッドライト』(55)あたりと共通するような、いかにもフランス映画らしい風情のあるいい作品だと思います。
ストーリー的には特にどうってことないのですが、なんといっても主演の二人が素晴らしい。
二人の酔っ払いぶりも最高で、とにかく彼らの一挙手一投足が魅力的な作品です。
ギャバンもこの作品でのベルモンドの演技を絶賛していたらしく、二人の共演がこの作品だけになってしまったのは意外でもあり、また、いかにも残念な気がします。
また、ギャバンの妻役のシュザンヌ・フロンも魅力的で素晴らしい。
舞台となった冬のノルマンディーの海辺の風景も印象的。
ミシェル・マーニュの音楽も印象的ですし、さり気ないラストも好み。
アラン・コルノー監督の『マルセイユの決着』の感想ですが、今回はキャストについて書いてみたいと思います。
物語の主人公、ギュ(ギュスターヴ・マンダ)を演じたダニエル・オートュイユ。
主演なのに、どうも存在感が薄いように感じられたのは私の偏見でしょうか。
他に存在感のある俳優が何人か出ているせいでもありますが、なんというか、オリジナルのリノ・ヴァンチュラそっくりの扮装をしている割に、風貌の可愛らしさが目に付いてしまうのですよね。
それと、数年前『あるいは裏切りという名の犬』(オリヴィエ・マルシャル監督)を観た時も感じたことなのですが、私はこの俳優の顔がちょっと苦手なのかもしれません。
理屈ではなく、生理的なものなのですが。
かといって、これだけのギュを演じられる俳優が現在他にいるのかといったら、名を挙げられないのですがね。
マヌーシュを演じたモニカ・ベルッチ。
なんといっても、容姿の美しさが最大の強み。
さすがに『ギャング』のクリスチーヌ・ファブレガの味わいこそありませんが、原作により近い妖艶な存在感で、演技も悪くなかった。
ただ、不思議と暗黒街の匂いを感じなかったのですが気のせいでしょうか。
あと、ベルッチだけのせいではないでしょうが、ギュとの別れのシーンは、オリジナルの足元にも及ばないと思いました…。
ブロ警視を演じたミシェル・ブラン。
実は一番不安だったのがこのキャスティングでした。
『ギャング』のポール・ムーリッスの名演がなんといっても強烈な印象にあるからですが、ミシェル・ブラン、かなり良かったです。
確かに容姿的にはオーラの感じられない人なので、見た目で損をしていますが、演技に渋い味わいがありましたね。
これはこの映画の大きな収穫だったと思います。
オルロフを演じたジャック・デュトロン。
役柄としては老けた感は拭えませんが、この人の存在感は大きかったです。
若い頃の人気歌手だった頃の顔を知っているだけに、年輪を感じさせる面構えに感慨深いものがありましたが、いかにも一匹狼的な虚無的な感じも出ていたと思います。
オリジナルのピエール・ジンメルも素晴らしかったですが、イヴ・モンタンがこの役をやってもさぞ良かっただろうな、とジャック・デュトロンの演技を見ていて思いました。
アルバンを演じたエリック・カントナ。
これもオリジナルのミシェル・コンスタンタンの風貌と比較すればスタート時点から既に不利ですが、想像以上に良かったと思います。
何より、ギュとの友情関係が滲み出ている点が好印象です。
演技も元サッカー選手としては上出来じゃないですかね。
ただ、マヌーシュとの主従関係が、オリジナルほどは見えにくいかなと思います。
アントワーヌ・リッパを演じたニコラ・デュヴォシェル。
この人は美男ですね。
演技もなかなか良かったです。
金塊強盗の警官銃撃シーンでは、オリジナルに倣って、十字を切っていました。
ヴァンチュール・リッチ(『ギャング』ではポール・リッチ)を演じたダニエル・デュヴァル。
この映画で残念な点の一つは、この役柄の存在感が薄いことですね。
演出のせいか、俳優のせいかは分かりませんが。
メルヴィルが『ギャング』を映画化する際、この役にレイモン・ペルグランをキャステイングすることが条件だったというほど、重要な役柄だと思うのですが…。
ちなみに、オリジナルの冒頭(マルセイユのナイトクラブのシーン)のポール・リッチと情報屋との密談シーンはこの作品ではカットされています。
オリジナルでは好きなシーンでしたので、残念でした。
ヴァンチュール・リッチの弟ジョー・リッチを演じたジルベール・メルキ。
『ギャング』のマルセル・ボズフィよりも人間臭い感じでしたね。
正直、マルセル・ボズフィのような俳優としての魅力はありませんが、この役の人間的弱さはよく出ていたと思います。
しかし、この人を観ていると、フレンチ・ノワールを観ている感じよりもスコセッシのマフィア映画を観ているような感じを持ったのは私だけでしょうか。
フランス人よりもイタリア人っぽく見えるせいでしょうか。
ファルディアーノ警部を演じたフィリップ・ナオン。
なんというか、あまりに粗暴な感じの役作りが気になりました。
オリジナルのポール・フランクールのような奥行きというか深さがないんですよね。
それにしても、こうしてキャストを見てきますと、オリジナルの『ギャング』がいかにキャストの充実した映画であったかを実感しますね。
もちろん、この『マルセイユの決着』のキャスティングもかなり健闘しているとは思います。
以上3回に分けまして『マルセイユの決着』の感想を書いてきましたが、とりあえず感想としては、こんなところです。
書き忘れている点もあるかもしれませんが、また思い出したらコメント欄にでも書き足したいと思います。
『マルセイユの決着』について、メルヴィルの『ギャング』との比較でいくつか指摘したいと思います。
まず、なんといっても目に付いたのが銃撃シーンにおけるスローモーションの多用です。
そして、銃弾を受ける人間の有様をスローモーションでつぶさに描写している点です。
また、流血シーンもところどころ目に付きます。
メルヴィルは『ギャング』に限らず、スローモーションは絶対と言ってよいほど使わない監督でしたし、死体をしつこく映さない監督でした。
決してバイオレンス性を売りにした監督ではないのです。
それだけに、これらのことは非常に気になりました。
正直言って、こういったセンスは個人的にはあまり好きではありません。
舞台設定上での『ギャング』との大きな違いは、金塊強盗のシーンの時と場所が、昼から夜に、峠から工場街へと変わっていることです。
この点は、原作に忠実なのは『ギャング』の方なので、『マルセイユ~』のオリジナルである点の一つですが、この金塊強盗のシーンは、方法が大変複雑に見え、『ギャング』のシンプルなやり方に比べ、かえってリアリティがないように思えました。
また、『ギャング』で峠の荒涼とした風景の中、男たちが輸送車が来るのを待っているシーンは、時間こそ短いものの、メルヴィルらしい“タメ”のある、なんともいえない緊張感のある良いシーンですが、この作品の金塊強盗のシーンでは、さすがにそういった味わいはありません。
『ギャング』はモノクロ、『マルセイユ~』はカラーです。
その違いは、その違い以上に大きいように感じられました。
いや、カラーであることが悪いのではありませんが、カラー映像の質感がトロッとしたコッテリ系で、メルヴィルのカラー映像のようなストイックさが感じられないのが残念といえば残念でした。
もちろん、メルヴィルのようなストイックさを追求する必要は必ずしもないのですが、往年のフレンチ・フィルム・ノワールの質感(メルヴィル以外も含め)とは明らかに異なる味わいを感じたこともまた確かです。
よく言えば現代的とも言えるのかもしれませんが…。
美術にもなかなか凝っている映画ですが、映画前半でギュが匿われる部屋、映画後半の集会場所に使われるアパートの一室、マヌーシュの家、ヴァンチュール・リッチの家、ジョー・リッチのバー等々、いずれも『ギャング』に比べ随分装飾過剰な印象を受けました。
カラーである点ももちろん影響していると思われますが、『ギャング』のシンプルさの“凄み”をかえって感じてしまいましたね。
ただ、登場人物たちの衣装は良かったと思います。
なにより、ソフト帽やコートが似合っていたことが第一です。
どうしても、『ギャング』との比較では分が悪いのですが、全体的に、『ギャング』の簡潔さがかえって良く感じられ、『マルセイユ~』は、エピソードの点も含め、詰め込み過ぎ、あるいは過剰な点が気になりました。
『ギャング』の簡潔さから生じている力強さ、凝縮力のようなものは『マルセイユ~』には薄いように感じられたのです。
次回はキャストについて、書いてみたいと思います。
先日、アラン・コルノー監督の『マルセイユの決着(おとしまえ)』をシアターN渋谷に観に行ってきました。
メルヴィルの『ギャング』との比較を中心に、その感想を雑記風に書き連ねてみたいと思います。
いろいろ話が前後するかもしれませんが、ご容赦下さい。
まず簡単な感想ですが、映画として面白かったです。
どうしても『ギャング』との比較で観てしまったのですが、キャストもなかなか魅力的でしたし、現代のような時代にこのような古臭い内容のフィルム・ノワールが撮られたことに率直に感動しました。
メルヴィルと原作者ジョゼ・ジョヴァンニによって書かれた『ギャング』の脚本はもともと傑作というべきで、この映画はそれをほぼ踏襲していますから(脚本は監督のアラン・コルノー)、ストーリー的にはかなり面白い作品になることは予め約束されていたと言うべきでしょうが、それにしても、映画としてよく出来ているな、という感想を私は持ちました。
メルヴィルの『ギャング』をご覧になっていない方にこそ、むしろお勧めしたい映画なのではないかと思います。
全体的に、『ギャング』に比べ『マルセイユ~』の方がストーリーが良くも悪くも説明的になっていると感じられました。
『ギャング』は簡潔である一方でストーリー的に難解な側面がありますので、『マルセイユ~』はその点を是正しようとしたのでしょう。
そして、映画の構成、カット割り等、確かに『ギャング』の影響はかなり大きいのですが、もともとジョヴァンニの原作にはあって、『ギャング』では省かれていたいくつかのエピソードがこの映画では取り上げられている点からも、ジョヴァンニの原作に立ち返って、再構成し直した映画であるように感じられました。
『ギャング』では省かれていて、この映画で取り上げられていたエピソードを思いつくままに挙げてみます。
●マヌーシュの夫(ポール)の死
●ブロ警部の部下のプーボンの女好きの側面
●『ギャング』では最終的にカットされたファルディアーノ警部によるヴァンチュール・リッチの拷問シーン
●マヌーシュの本名とオルロフのマヌーシュに対する恋愛感情
●ブロ警視の家族のエピソード
●ギュが警察病院から脱走する際に二人の男の助力を得ること
等々です。
他に、モニカ・ベルッチの演じたマヌーシュのキャラクターも、『ギャング』よりも原作に忠実と言えそうです。(原作ではマヌーシュは超美人のグラマーという設定)
また、『ギャング』ではポール・リッチになっていた名が、原作に習ってヴァンチュール・リッチになっていたのはマヌーシュの元夫の名との混乱を避ける意味でも正しい処置だったと思います。
こういうことからも、メルヴィルの映画以上にジョヴァンニの原作を重んじた映画だと言えるでしょう。
この項、次回に続きます。
メルヴィルを始め、往年のフランス映画やアメリカのフィルム・ノワールのほか、JAZZ、松田聖子など好きな音楽についても綴っています。
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