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前回に続く

一分の隙もないナイアガラサウンドに満たされ、あまりに高い完成度を誇るA面に比べると、B面の5曲はそこまでの統一感、完成度はない。

しかし、B面の冒頭を飾る『流星ナイト』は、A面の聖子さんの声とは明らかに異なる、初期の声に近い声で歌われる佳曲。
この声を聴く気持ち良さはやはりこたえられない。

続く『黄昏はオレンジ・ライム』(作曲:鈴木茂)は聖子さんの声、アレンジ共に前作『Silhouette 〜シルエット〜』に入っていてもおかしくないような初期テイストの愛すべき作品。(事実、鈴木茂は『Silhouette 〜シルエット〜』のセッションにE・ギター奏者として参加している)

このアルバムでは若干毛色の違う『白いパラソル』(以前書いた記事)を挟んで、続く『雨のリゾート』は聖子さんの歌う喜びが聴き手に直接伝わるような、素晴らしい美声が堪能できる。
そして、深い余韻を残す歌の表現力が素晴らしい王道の聖子バラード『December Morning』でアルバムは幕を閉じる。

お分かりの通り、B面も内容的にはA面に全く引けを取らない
むしろ息苦しくなるくらい完成度の高いA面よりも、どこか開放感がありバラエティに富んだB面の方が好きだという意見があっても少しもおかしくない。
特に『流星ナイト』と『雨のリゾート』は今でもファンの間で人気は高い。
実際、聖子さんが伸び伸びと歌っているのはB面の方だろう。

結果的に、聖子さんの声の調子の決して良くなかった時期の録音にもかかわらず、このアルバムは信じられないくらい魅力的な美声で満たされることになった。
聖子マジックとしか言いようがない。

それと、今このアルバムを聴き通してみて驚くのは、A面とB面に思ったほど雰囲気の違いを感じないことだ。

この連載の1回目の記事で私はアルバム全曲を大滝が書いたようなイメージがあったと書いた。
つまりB面にもどことなく大滝の色を感じるのである。
その秘密はB面の『白いパラソル』(編曲:大村雅朗)以外の4曲のアレンジを担当した鈴木茂にあったのではないかと思う。

前述の通り、鈴木茂は大滝、松本隆と同じくはっぴいえんどの元メンバーであり、大滝の『A LONG VACATION』のセッションにも参加している。
いわば大滝の音楽性に精通している盟友だ。

ここからは私の推測になるが、鈴木がA面の大滝の楽曲、アレンジを見越して、B面の楽曲も大滝のそれに近いテイストのアレンジを施したのではないだろうか?(プロデューサーの意向もあったかもしれない)
いわば、鈴木の才能とセンスによって、A面とB面が分断せず、アルバムとしての統一感を辛うじて保ったとも考えられるのである。

このアルバムのクレジットを見ると、鈴木はミュージシャンとしてもこのアルバムのセッションに参加しており、なんと『白いパラソル』以外の全曲でE・ギターを弾いている
大滝の影に隠れて目立たないが、このアルバムの“影のMVP"は鈴木茂だと言えなくもないのである。

以上、アルバム『風立ちぬ』と周辺事情、当時の昔話についてダラダラと綴ってきた。

たった一枚のアルバムについて書くのにこんなに長くなるとは夢にも思わなかったが、それだけこのアルバムが私個人にとっても、聖子さんにとっても、おそらくは大滝を初めとするアルバムに携わった音楽家たちにとってもエポックメイキング的な存在感を放っているということではないかと思う。
この記事を書いている間、少なくとも10回以上はこのアルバムを聴いたが、まさに至福の時間であった。
このアルバムに携わったすべての人たちに感謝したい。

聖子さんの歴史上におけるアルバム『風立ちぬ』の位置づけとしては、楽曲的にも聖子さんの声質的にも、初期から次の段階に至るまでの過度期の作品と捉えるべきなのかもしれない。

といっても、もちろん中途半端な作品ということではない。
大滝詠一を始めとする当時の日本のポップス界の精鋭たちは、その才能の絶頂期にこのアルバムのために身を削り、最高の楽曲を提供した。
そして、19才の聖子さんは声の不調という悪条件を乗り越えながらも出来うる限りのパフォーマンスでそれに応えた。

最高の音楽がそこにあり、聖子さんがポテンシャルの高さを発揮すれば、結果は自ずと知れる。
だからこそこのアルバムは、今なお日本ポップス史上唯一無二の存在感を誇っているのだと思う。
(この項終わり)

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フランスの映画監督ジャン=ピエール・メルヴィル監督作品のファンサイト附属のブログです。
メルヴィルを始め、往年のフランス映画やアメリカのフィルム・ノワールのほか、JAZZ、松田聖子など好きな音楽についても綴っています。
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