[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
ジュリアン・デュヴィヴィエ監督の『めんどりの肉』を観ました。
『Chair de Poule』63年
監督・脚本:ジュリアン・デュヴィヴィエ
原作:ジェームス・ハドリー・チェイス
脚本・台詞:ルネ・バルジャヴェル
撮影:レオンス・アンリ・ビュレル
音楽:ジョルジュ・ドルリュー
出演:ロベール・オッセン、ジャン・ソレル、カトリーヌ・ルーヴェル
タイトルの「めんどり」とは売春婦を表すスラングとのこと。
一見間の抜けたタイトルで損をしているかもしれませんが、これは紛れも無いフィルム・ノワールの傑作です。
ドライブイン兼レストランが舞台で、店を切り盛りする年の離れた夫婦の元に若い男が来て…というと、あの『郵便配達は二度ベルを鳴らす』を思い起こします。
ジュリアン・デュヴィヴィエ監督の比較的晩年の作品ですが(69年に監督は事故死)、登場人物の心理状態が手に取るようによく分かり、その語り口の巧さはさすがとしかいいようがありません。
とりわけ、登場人物それぞれの欲望がぶつかり合う映画後半の展開は迫力があります。
この映画の主演には、もともとアラン・ドロンとカトリーヌ・ドヌーヴが予定されていたとのこと。
言うまでも無く、メルヴィル監督の『リスボン特急』のコンビですが、どういう事情があったのかその計画は流れ、結果的にロベール・オッセンとカトリーヌ・ルーヴェルのコンビとなりました。
もし、『めんどりの肉』でドロンとドヌーヴのコンビが実現していたら、メルヴィル監督の気質からいっても『リスボン特急』のキャスティングはなかったかもしれません…つまり、メルヴィル監督作品とも全く関係のない作品とも言えないのです。
それはともかく、大スター二人の共演の消滅は残念ではありますが、映画そのものは、その不満を全く感じさせない見事な出来栄えです。
キャストでは、なんといっても、カトリーヌ・ルーヴェルのファム・ファタールぶりが凄い。
彼女の出演作では、ジャン・ルノワール監督の『草の上の昼食』の明るい健康美が印象に残っていますが、この作品では、それとは全く異なる役柄を堂々と演じきっています。
あまりにもハマリ役で、ドヌーヴのこの役なんかちょっと想像つかないくらい。
相手役のロベール・オッセン(『殺られる』『凶悪犯』)は、スター性は乏しいものの、却ってその普通具合がイイのか、彼の出演作は妙に感情移入して観てしまいます。
仲間のジャン・ソレル(『昼顔』)も存在感がありましたし、他にもジョルジュ・ウィルソン(『かくも長き不在』)、ニコ-ル・ベルジェ(『ピアニストを撃て』)などキャスティングも何気に豪華。
また、『抵抗』『スリ』など、ロベール・ブレッソン監督作品の撮影監督でもあったレオンス・アンリ・ビュレル撮影による、昼か夜か分からない微妙な空合いが印象的。
ジョルジュ・ドルリューの音楽は美しいものの、少々情に流れる感もあります。
『めんどりの肉』の原作は『あぶく銭は身につかない』(創元推理文庫)ですが、ハドリー・チェイスの小説はたびたび映画化されています。
ジェイムズ・ハドリー・チェイスのサイト
http://jameshadleychase.free.fr/summary.htm
英国作家ジェイムズ・ハドリー・チェイス(06-85)原作映画の一部。
『黒い骰子(サイ)』(48。原作『ミス・ブランディッシュの蘭』。セイント・ジョン・L・クラーク)、『拳銃の報酬』(50。ジョーゼフ・ニューマン)、『目撃者』(57。イヴ・アレグレ、主演ロベール・オッセン)、『殺人狂想曲』(57。ジュリアン・デュヴィヴィエ、主演フェルナンデル)、『女は一回勝負する』(57。アンリ・ヴェルヌイユ、主演アンリ・ヴィダル)、『非情』(57。ドニ・ド・ラ・パテリエール、主演ミシェール・モルガン、ダニエル・ジェラン)、『Delit de fuite』(59。ベルナール・ボルドリー、主演アントネッラ・ルアルディ、フェリクス・マルテン)、『Ca n'arrive qu'aux vivants』(59。トニー・セイター、出演レモン・ペルグラン、ダニエル・コーシー他)、『悪党ども』(60。モリス・ラブロ、主演マリナ・ヴラディ、ロベール・オッセン)、『悪の報酬』(61。アルヴィン・ラーコフ、主演ロッド・スタイガー)、『Dans la gueule du loup』(61。原作『貧乏くじはきみが引く』。ジャン=シャルル・デュドリュメ、主演フェリクス・マルテン、マガリ・ノエル)、『エヴァの匂い』(62。ジョーゼフ・ロウシー、主演スタンリー・ベイカー、ジャンヌ・モロー)、『ある晴れた朝突然に』(65。脚本。ジャック・ドレー、主演ジャン=ポール・ベルモンド)、『ブロンドの罠』(67。ニコラ・ジェスネル、主演ミレイユ・ダルク)、『La Petite vertu』(セルジュ・コルベール、主演ダニー・カレル)、『Trop petit mon ami』(70。エディ・マタロン、主演ジェイン・バーキン)、『傷だらけの挽歌』(71。ロバート・オルドリッチ)、『蘭の肉体』(75。パトリス・シェロー、主演シャーロット・ランプリング、ブリュノ・クレメール)。
『Trop petit mon ami』(冒頭10分)。原作『クッキーの崩れるとき』(創元推理文庫)。小人のティキー・エドリス役は『刑事マディガン』(68)、『夕なぎ』(68)のマイケル・ダン。
http://jp.truveo.com/Trop-petit-mon-ami/id/801540895
INAのアーカイヴには「Jean-Pierre Melville a propos de James Hadley Chase」という1972年の映像があります。
http://www.ina.fr/archivespourtous/index.php?vue=notice&id_notice=I00013852
ジェイムズ・ハドリー・チェイス原作映画の紹介ありがとうございます。
この中で観たことがあるのは『エヴァの匂い』ぐらいかもしれませんが、他にも観たい作品が目白押しです。
ジェイムズ・ハドリー・チェイスのサイトや「Jean-Pierre Melville a propos de James Hadley Chase」のご紹介もありがとうございます。
INAの映像は和気藹々としていて観ているだけで楽しいですね。
メルヴィルがハドリー・チェイスの小説を映画化しなかったのは意外と言えそうです。
ところで、邦題は意味不明なので、仏和を見ると「avoir la chair de poule」という慣用句があり、「鳥肌が立つ」(ぞくっとする)という意味だそうです。以下も参照。
http://ecole.kikounette.biz/cahier_d-exercice/expressions/post_330.html
だからこの原題は、たぶん「鳥肌」といったような意味なのでしょう。たしかに「poule」には昔は「売春婦」という侮蔑的な意味もあったようですが、今ではただの「女」の意味で軽く使われるようです。
『大人は判ってくれない』の原題「Quatre cents coups」も英語で「The Four Handred Blows(400回の殴打)」と直訳され、意味不明になっていますが、これも「faire les quatre cents coups」(無分別な行為を繰り返す、性懲りもないことばかりする)という慣用句のもじりです。
『勝手にしやがれ』の原題「A bout de souffle」も「etre a bout de souffle」(息切れがしている、力尽きている)という慣用句のもじりで、ほぼ英語題の「Breathless」に近い意味でしょう。
フランス映画の題名はこういうひねったものがわりと多いので、よく調べずにテキトーに直訳調にするとチンプンカンプンになります。
メルヴィルを始め、往年のフランス映画やアメリカのフィルム・ノワールのほか、JAZZ、松田聖子など好きな音楽についても綴っています。
リンク、コメント、TB等はご自由にどうぞ。